松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
なぜ松山英樹は逆境に耐えられるか。
「軸を取り戻す」という確固たる目標。
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph bySonoko Funakoshi
posted2016/03/10 10:40
辛い状況でも、表情はつとめて明るく。松山英樹の強さの理由の1つは、この精神的なタフさにある。
昨年はマキロイがアイアンを池に投げ込んだコース。
しかし、9番で池に落としてダブルボギー、10番もダブルボギー、11番と12番は2連続ボギー。足し上げた「81」は米ツアーで彼が喫したワーストスコア。長い長いラウンドだった。
だがその間、松山はただの一度も激昂しなかった。ドラールのブルーモンスターは、その名の通りの難コース。強風が吹けば、まさにモンスターと化す。昨年大会でローリー・マキロイが腹立ち紛れに3番アイアンを池に投げ込んだことを思えば、これだけ大崩れしながらじっと耐えた松山の姿は、さながら修行僧のようだった。
「悪いものは悪い。しっかり受け止めたい。明日から頑張りたい」
3日目は一転して「68」の好スコア。すっかり立ち直ったかに見えた松山だが、ホールアウト後、スコアボード係だったボランティア少年にボールをプレゼントしようと歩み寄った彼は、痛そうに足を引きずっていた。
股関節痛での棄権から1週間、今度は爪。
前週のホンダクラシックは股関節痛で途中棄権。キャデラック選手権も、蓋を開けてみるまで出場の可否がわからない状況だった。松山自身、「大丈夫だと思う」と判断しての出場だったのだが、ひょっとしてまだ股関節が痛むのか? 悪化しているのではないか?
「松山くん、足、大丈夫?」
痛んでいたのは股関節ではなく、左足の小指の爪だった。その場に座り込み、シューズと靴下を脱ぐと、剥がれそうになった小さな爪の周囲に、数分前水中ショットをした際に入り込んだ砂がめり込んでいた。
「爪が、すぐ上に向くっすよ」
一難去って、また一難。股関節の痛み、大崩れのショック、そして足の爪の痛み。
それでも我慢強くいられるのは、その先に求める何かがあるからに違いない。それは何なのだろう。さらなる優勝? メジャー初優勝? 世界一? その「何か」が知りたくてたまらなくなった。