松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
なぜ松山英樹は逆境に耐えられるか。
「軸を取り戻す」という確固たる目標。
posted2016/03/10 10:40
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph by
Sonoko Funakoshi
あんなにも荒々しい息遣いでプレーする松山英樹を見たのは初めてだった。
キャデラック選手権2日目の2番ホール(パー4)。ドライバーショットを左に曲げ、大きな木のそばから打ったセカンドショットはグリーン左方向へ飛んでいった。
ロープの内側を歩いていた私は、次打が見える場所を求めてグリーン奥のTV塔の裏側から回ろうとしていた。が、ふと見ると、そのときすでに松山は第3打に入ろうとしていた。
今日はプレーのペースがいつもより早いな。そう思ったときには、足場がうまく取れない様子の彼は左打ちする体勢を取り始め、そこから打った第3打はグリーンを越え、グリーンの裏側から回り込もうとして立っていた私のすぐ目の前のバンカーに転がり込んだ。
勢いよく転がってきた松山のボールは、バンカーの奥側の傾斜上に止まった。彼はやっぱり、いつもの彼らしからぬ妙に早いペースでバンカーに近づき、左足下がりのライを見るやいなや、すぐさまバンカーの中へ。
「ハー、ハー」
荒々しい息遣いが聞こえてきたのは、私が彼の至近距離に立っていたせいばかりではなかったと思う。あのときの松山は明らかに、いつもの松山ではなくなっていた。
呼吸を整える間もない第4打、そして深呼吸。
呼吸を整える間もないほどの早さで第4打を打った。ボールはバンカーから出ず、再び砂上に戻った。白い砂の上で無情に白く光るそのボールを見つめた松山は、ついに溜め息のような深い呼吸を1つ。
「フーッ」
ようやく落ち着いたのだろうか。5打目でピン1メートル半に寄せ、1パットでカップに沈めてダブルボギー。まだ序盤ゆえ、残る16ホールで取り返せばいい。そう思ったのも束の間、次なる3番でも第2打を池に落として2連続ダブルボギー。
5番でさらにボギーを叩いたが、6番ではピン2メートルにピタリと付け、スコアを1つ戻して、再び「フーッ」と深い息を吐いた。そして7番ではパーを拾った。まだ立ち直れそう。まだ大丈夫。挽回の兆しは、あると感じた。