濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
シュートボクシングのエースとして。
鈴木博昭、どん底からの復活ロード。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byChiyo Yamamoto
posted2016/02/21 10:30
鈴木(左)はムエタイ戦士・タップロンの巧妙な試合運びに苦しんだ。
「僕は4番バッターじゃない。1番だと思ってます」
そういう選手だから、気持ちがそのまま試合に出る。団体を支える立場になっても、それは変わらなかった。
「僕は4番バッターじゃない。1番だと思ってます。守るんじゃなく、攻めていくチャンピオンになりたい。たとえば海外で試合をして、シュートボクシングの名前を広めたり」
だが、エースは自分の希望ばかりを押し通せない立場でもある。モチベーションが上がる試合ばかりとも限らない。たとえば12月のザカリア戦は、2年間で3度目の対戦。これまで2勝している相手との闘いは“守る”ためだけのものになってしまった。野性児の野性が封印されたのである。
以前「いかに負けないか。その上でどれだけ面白い試合にできるか。そのへんのすり合わせは、今でもまだ努力してる最中です」と語っていた鈴木は、しかしそのギリギリのバランスを崩してしまったのだ。
ついに……キャリア初の連敗を。
2月13日の後楽園ホール大会では、タップロンと3度目の対戦。リベンジマッチだけにモチベーションも上がるはずだと思われたが、34歳の老獪なムエタイ戦士は、気持ちのいい真っ向勝負をさせてくれない選手だった。
「思い返すと、S-cupで優勝してからの僕は停滞していた。“自分はどこに向かってるんだろう”と。今は一からやり直そう、純粋に強くなろうという気持ちでいます」
試合前日の会見でそう語った鈴木。序盤は前蹴りで相手を突き放しながら前進し、パンチをヒットさせていったが、そんな“純粋”に倒しにいく闘いを最後まで続けることができなかった。離れた距離で強烈なミドルキックを食らい、強引に前に出てもパンチの連打が出せない。首相撲で絡め取られてしまうのだ。
観客にも、鈴木自身にもフラストレーションのたまる試合の結果は判定2-0での敗北。
キャリア初の連敗だった。