濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
シュートボクシングのエースとして。
鈴木博昭、どん底からの復活ロード。
posted2016/02/21 10:30
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Chiyo Yamamoto
鈴木博昭の心からの笑顔を、ファンは久しく見ていない。
創設31年の老舗団体、シュートボクシングのエース。2014年にS-cup世界トーナメントを制し、昨年夏にはスーパーライト級世界タイトルも獲得した。その爆発的な攻撃力は、現在のシュートボクシングで最大の“見もの”だ。
だが、人生最大の目標であったS-cup優勝を果たすと、その試合ぶりは精彩を欠くようになった。昨年6月にムエタイ戦士タップロンとのリベンジマッチに敗れ、同12月には過去に2度勝っているザカリア・ゾウガリーに圧倒された。世界王座を獲得した4人制トーナメントは、2試合とも判定勝利。ベルトがかかった試合を落とさなかったのはよかったが、それだけではエースとしての“仕事”をしたとはいえなかった。
「勝ててよかった」だけでは盛り上がらない。
シュートボクシングは、打撃に投げ、スタンディングでの絞め・関節技を加えたオリジナルの立ち技格闘技だ。大会ではランキング、タイトル争いと同時にキックボクシング、ムエタイ、MMAなど他ジャンルとの闘いも中心になる。独自の競技ゆえに“他流試合”で勝つことで名を高めてきた歴史がこの団体にはあるのだ。
そして団体を支えるという意味では、エースが結果を残すだけでなく、常に観客を満足させる必要がある。メインイベントの赤コーナーに立つエースの不完全燃焼は、観客の落胆に直結しやすい。「勝ててよかった」だけでは団体を盛り上げることにはならない。
そういう団体でエースになった鈴木は“野性児”タイプの選手だ。最大の武器はセオリーに頼らない勘のよさ。ジムだけでなく、ときには山に入ることも練習の1つ。あてもなくひたすら走り、目に付いた木に登ったりするという。野菜はそのまま齧るか、手で引きちぎって食べる。曰く「自然のままを口にするのが体にも一番いい」。