濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
地味でグダグダだからこそ光り輝く。
元DEEP王者・白井祐矢の格闘技人生。
posted2016/03/03 10:30
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Hisao Yamaguchi
「グダグダになっちゃいましたね。僕らしい試合で。最後までうまくいかなかった」と苦笑したあとで、白井祐矢はこう続けた。「でも、やってきたことは出せました」。2月27日のDEEP後楽園大会。そのメインイベントは、彼の引退試合だった。
ミノワマンを相手に判定3-0での勝利。2ラウンド開始直後に右フックでダウンを奪ったが、そこからKOにつなげることはできなかった。
白井は元DEEPウェルター級チャンピオンである。国内MMAの最前線のリングでベルトを巻いたくらいだから、格闘技の才能には恵まれていたのだろう。だが“ド派手なKO”や“華麗な一本”を量産するタイプではなかった。堅実、あるいは慎重。はっきりいってしまえば地味な選手だった。実力はあるはずなのに、大舞台や強豪外国人との試合で不思議なくらい勝てなかった。本人曰く「それが“持ってない”ってことなんでしょう」。
最後の対戦相手であるミノワマンは、逆に“持ってる”タイプだ。何度も奇跡的な逆転勝利を収め、KO・一本に最短距離で向かう試合ぶりで観客を熱狂させてきた。PRIDEなど大舞台で輝いてきた選手でもある。ただ近年は思うような結果が出せていないだけに、今回のDEEP参戦には出直しの意味もあった。
地味で「グダグダ」な試合運びを最後も貫く。
自分とは対極の相手と最後に巡り合った白井は、そこでも自分のスタイルを貫いた。ミノワマンは強引に前進して左右のフックを振るってきたが、熱くなって打ち合ったりはしない。
まずはジャブ、それにローキック。自分の距離を保ち、少しずつダメージを与えてテイクダウンへ。ミノワマンのパンチを被弾し、試合後に「よく倒れなかったなと思います」と語っていた白井。だからこそ堅実な闘いぶりが活きた。ある選手は、かつてミノワマンを「ミラクルがある選手」と評している。そのミラクルを、“持ってない”白井が地力で抑え込むような展開だった。地味で「グダグダ」な判定勝ちは、一方で完勝でもあった。
最後くらい派手に勝ちたい。そんな誘惑にかられなかったかと白井に聞いてみた。すると彼は、「いやいや」と言って首を振った。
「そこは堅実に。セコンドの長南(亮)さんにも言われてましたから。最後までキチッと仕事しろよって」