サムライブルーの原材料BACK NUMBER
紛争で傷ついた街にアカデミーを。
宮本恒靖が架ける「サッカーの橋」。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byAthleteplus
posted2015/11/13 11:50
元プロサッカー選手としてFIFAマスターを合格したのは日本人初の快挙だった。
開校へ向け、最後の課題はやはり資金。
「サッカーは、人種とか性別とか一切関係なく、一つのボールを追いかけることができる。子供同士で交流していけば、琴線に触れるところがきっとある。大きくなって、いい関係につながっていくようになれば嬉しいですよね。フェアプレーの精神、チームスピリット、リスペクト精神など、勝った負けたじゃない、サッカーを通じて人生で大切なことを学んでほしい」
しかしながら開校に向けては、大きな課題がまだ残されている。
それは、スポーツアカデミーの運営資金。子供たちから受講料を取らない以上、行政やスポンサーから支援を受けるところからスタートさせなければならない。その支援の枠組みは、まだ出来上がったわけではない。
より多くの人々にこの活動を支えてほしい。そのため宮本は今回クラウドファンディング(インターネットを介した資金提供の協力)を立ち上げることにした。
宮本は今年からガンバ大阪のジュニアユースコーチに就任し、年内にはJリーグの監督資格であるS級ライセンスも取得の見込みだ。指導者の道をまい進している今、モスタルに行くことはできていない。実働部隊となっているFIFAマスターの同期生と連絡をこまめに取り合い、日本から支援の輪を広げることに力を注いでいる。
「“もうちょっとなんだな”という充実感があります」
一つのボールが、融和をもたらす。
彼は言葉に力をこめる。
「マリモストがうまくいけば、ほかの紛争地域でもやれるかもしれないと思っています。今回、周りの理解を得ることは決して簡単ではなかったし、施設ができたとしても、次に運営費という問題も出てきました。取り組むほうにも、かなりのエネルギーが必要でした。でもオープンできるところまで来て“もうちょっとなんだな”という充実感があります。モスタルで子供たちと一緒にサッカーをやってみて、彼らは楽しそうに、一心不乱にボールを追いかけていたのが印象的でした。あの子供たちのために小さな架け橋を架けたい」
モスタルには「スタリ・モスト」という16世紀にできた古い橋がある。
紛争で壊されたものの、10年ほど前に修復された橋は世界遺産に登録されている。
次は子供たちの心に。
サッカーボールと、人々の思いでつくる立派な「マリモスト」が架かることを、宮本恒靖は信じている。