サムライブルーの原材料BACK NUMBER
紛争で傷ついた街にアカデミーを。
宮本恒靖が架ける「サッカーの橋」。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byAthleteplus
posted2015/11/13 11:50
元プロサッカー選手としてFIFAマスターを合格したのは日本人初の快挙だった。
現地で宮本が感じた成功への可能性。
美しい町並みは壊され、子供たちがスポーツをする場所も消えた。紛争後、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を抱える子供たちも少なくないというデータも手にした。
プロジェクト実現に向けて、宮本はモスタルの地をこれまで4度訪れている。「破壊」と「対立」の爪痕を、自分の目で見てきた。
「町はいまだに紛争の跡が残っています。学校の授業でも児童が他民族の子供たちと一緒に机を並べて勉強することは基本的にありません。でも僕たちが訪問したとき、JICAのプロジェクトにより、日本から提供を受けたコンピューターを使い、異なる民族が一緒になってITの授業を行なっていました。親の世代には依然対立意識はあるとしても、紛争を直接知らない今の児童たちにはそこまで(壁が)ないのかもしれないなと感じました」
ボスニア・ヘルツェゴビナは親日国としても知られる。モスタル市内を走るバスも、日本の支援によって壊滅状態から復活している。
宮本は元日本代表、ワールドカップ経験者としての知名度を活かし、マリモストプロジェクトのアンバサダー的な役割を任されている。
アカデミーの施設は市の協力もあって市の中心部に位置するスポーツセンターを全面改修することに決定。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、スポーツを通じた世界平和への貢献活動「Sport for Tomorrow」を展開する日本政府が約3000万円を資金援助し、今年1月の調印式には山崎日出男駐ボスニア・ヘルツェゴビナ大使、モスタルのリューボ・ベシュリッチ市長とともに宮本自身も出席している。サッカー教室や現地のイベントにも顔を出し、イビチャ・オシム元日本代表監督やボスニア・ヘルツェゴビナ代表の協力も取りつけた。
民族の垣根も、性別も問わない募集。
マリモスト。
修士論文のテーマに決める際、グループでこの名前に決めた。民族間に架かる「小さな橋」、子供たちで架ける「小さな橋」……。これはモスタルに住む人々にも協力を呼びかけていく言葉ともなった。
募集は7歳~12歳までの80名。言うまでもなく民族の垣根はない。男女平等の意識を植えつけたいという意図もあって、女児も積極的に受け入れることにした。11月7日にはプレオープンイベントが現地で催されたばかり。アカデミーが完成するまでは市の施設を借りるなどして本オープンに向けて徐々にカリキュラムをスタートさせる予定である。