スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
全日本を東洋が制し、箱根は混戦?
本命はなお青学も、神野次第では……。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKyodo News
posted2015/11/09 10:30
胴上げされ、喜びを爆発させる東洋の酒井監督。青学を倒し、再び王座につくことができるか。
久保田が離される姿に目を疑った。
櫻岡は追いつかれたあとも並走した。久保田は突き放せなかった。
「序盤で足を使わせれば、それがボディーブローのように効いてきます。それは柏原が卒業してから、苦しいレース展開のなかで身をもって体験したことでした」
そう酒井監督はよく話すが、櫻岡はラスト2キロまでしぶとく走り、そこから一気にギアをチェンジした。酒井監督の指示通りである。
久保田が置いていかれた。
正直、目を疑った。あの久保田が離されている!
中継点では8秒の差をつけて、櫻岡がトップでタスキを渡した。区間賞は久保田が取ったが、ダメージの残る区間賞であったことに疑いはない。櫻岡は区間タイムでは譲ったものの、勝負は決して譲らなかったのである。
「区間賞を取れなかった選手の走りが、青学大の屋台骨を崩したと思います」
酒井監督にとっては会心のレースだろう。
「つなぎ区間」がじわりと呼び込んだ優勝。
その後、5区では青学大の下田裕太が追いつき区間賞を奪ったが、6区、7区と東洋大がじわり、じわりと突き放して最終8区につないだ。
どんな駅伝でもチームの中間層が走る「つなぎ区間」というものが存在するが、後半に配置された東洋大のランナーの粘りが優勝を呼び込んだ。じわり、敵陣の王将を「詰めろ」の状態に追い込んでいたのである。
青学大はアンカーに「新・山の神」と呼ばれる神野大地を配置していたが、故障明けとあって、本来の力を発揮できなかった。
東洋大の"完勝”だった。
とある大学の監督は、東洋大の強さをこう評した。
「ラスト2キロの粘り。あれは個人の技術や力ではないと思います。明らかに『チーム力』です。何が何でも相手より先にタスキを渡すという意地、本当に見事でした。感服します」