プロ野球亭日乗BACK NUMBER
高橋由伸新監督が継承すべきもの。
原巨人が体現した「勝つ組織」とは。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2015/10/31 10:40
12年の監督期間中に7度のリーグ優勝と3度の日本一をなしとげた原監督。その後任の責任は重い。
兼任コーチだった1年間、何を伝えたのか。
それ以来、必ず監督が交代するときには、「継承」ということが強調される。2003年に原監督が第1次政権を退いたときには「読売新聞社の人事」として堀内恒夫監督への交代を説明したのも記憶に新しい。要はやめる方も新たに引き受ける方も納得ずくの交代劇だと強調するために、必ず「継承」ということが言われるわけだ。
その点では今回の原退任、高橋新監督誕生は少し唐突な印象は拭えないが、双方の思いの中にバトンの受け渡しはあり、スムースにいくはずである。
原監督もここ数年は高橋新監督を自分の後継候補として考え、特にこの1年は兼任コーチとして様々な場面で、指導者としての考え方、監督としての決断の仕方など伝えられることは伝えて来たはずだ。高橋新監督もそういう覚悟で、この1年は兼任コーチとしてチームを見てきた。
新しい「高橋野球」に、芯が継承されてほしい。
それでは高橋新監督自身が、どういう風に原野球を「継承」するのか、といえばそれはたった一つだけである。
「いつも原監督は個人ではなく巨人と言われていたように、勝つためには個ではなくチームと教えられてきた」
高橋新監督の会見での言葉である。
「プロの世界では勝つことが一番のミッションになる」という原監督の言葉を受け継ぎ、個を捨ててでもチームの勝利のために選手が動く組織――ONのV9時代から綿々と受け継がれてきた巨人の伝統を「継承」する。
それこそが唯一、高橋監督が原前監督から継承すべきもので、あとはまったく新しい「高橋野球」を作り出せばいいのである。
原監督が完全にチームを掌握するまでには、第1期の2年と復帰してからさらに2年の4年ほどかかったように見えた。その点からすれば、専任コーチの経験もなくチームを指揮する高橋監督の場合は、少なくとも3年は時間が必要なのではないだろうか。
原野球の精神さえ継承できれば、チーム作りへの、勝利へのアプローチの仕方はまったく違う道もある。
4番に送りバントをさせるのが原野球なわけではないし、今まで見てきた原野球とは、チームを勝たせるために、批判を恐れずにサインを出した結果でしかないからだ。
だから高橋監督の新しい巨人が、まったく違う野球をやるのもまた楽しみである。打線を固定して、クリーンアップにはバントのサインを出さないのもいいだろう。表に出てくる形は違えども、勝利へ、チーム一丸となってアプローチする心があれば……まさにそれこそ原野球を「継承」しているということだからだ。