プロ野球亭日乗BACK NUMBER
千賀が山田に打たれ、久古が柳田切り。
ヤクルトが“ジョーカー”で手にした1勝。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2015/10/28 12:10
3打席連続ホームランでヤクルトに漂っていたマイナスの雰囲気を振り払った山田哲人。
工藤監督にとって、千賀はジョーカーである。
ヤクルトは先発投手陣に不安を抱える部分はあるが、それでも一度、強力打線でリードを奪って継投に入ればロマン、オンドルセク、バーネットの外国人トリオに秋吉亮、久古健太郎というリリーフ陣で逃げ込みを図れる。
一方のソフトバンクは、先発も充実しているが、それに輪をかけて千賀、五十嵐亮太、サファテにバリオス、二保旭らを加えた中継ぎ、クローザーもリーグ随一を誇った。
結果的に両監督が描くゲームプランは、いずれもクローザーからの逆算となる。すなわち中盤までにリードを奪って、どうやってこの必勝パターンの継投に持ち込むか、だ。
そしてその継投で工藤監督のジョーカー的な役割を担っているのが、150キロ超のストレートと落差の大きいスプリットで相手打者を圧倒できるパワーピッチャーの千賀である。
「大事な場面で、と最初から考えていた」
5回に明石健志のソロで1点をリードした直後、その裏の2死から中田が川端慎吾を歩かせ山田を打席に迎えると、迷わず工藤監督は千賀をマウンドに送っている。
ジョーカーが打たれたダメージを軽減するために。
ここで山田を抑えきれば、ゲームの流れを完全掌握できると踏んでの起用だった。クライマックスシリーズ(CS)のファイナルステージでも、同じような勝負どころで千賀をマウンドに上げた。2試合に登板し、3回3分の2を無失点で切り抜けたこのパワーピッチャーこそ、工藤監督が試合を決めるときに切るジョーカーなのである。
その千賀が、もっともマークしていた山田に打たれた。連勝して乗り込んで、敵地での1敗は計算内かもしれない。ただ、相手の最も強い駒に、自分の持つ最も強い駒をぶつけて敗れた痛手――こちらはシリーズという大きな流れの中で、単なる1場面での勝負での敗北、単なる1試合での勝敗という以上に、大きな意味を持つものだった。
だからあえて指揮官は、試合直後に「単なるミス」として、この敗北を処理しようとしたのである。
それではヤクルト・真中満監督にとってのジョーカーは誰なのか?