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岡田武史が自ら獲得に動いた男。
山田卓也が語る、FC今治の野望。
text by

小須田泰二Taiji Kosuda
photograph byTaiji Kosuda
posted2015/09/15 10:30

今治FCには、市川大祐と山田卓也(写真)という元日本代表が2人いる。彼らがこのクラブに植えつけるものは、果たしてどんな実をつけるのだろうか。
帰国当日に岡田に会い、FC今治に誘われた。
6月某日。山田は都内のホテルにいた。一足先にレストランの個室で待っていたのが、トレードマークのメガネをかけた岡田オーナーだった。
「お久しぶりです、山田です。よろしくお願いします!」
「こちらこそ帰国したばかりでお疲れのところ、時間をもらってありがとう。早く会えないかって催促してすまないね」
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日本人監督として、唯一ワールドカップを経験した名将が目の前にいる。しかしその姿は、今まで会った監督と比べてもとても謙虚で紳士に見えた。
最初に山田が相談内容を説明した後、続いて岡田オーナーが開口一番、こう言った。
「もし現役を続けるつもりがあるのなら、うち(FC今治)でプレーしてくれないか?」
もしかしたらオファーがあるかもしれないとは想像していたものの、本当に誘ってくれるとは思っていなかった。
一時はフロリダでプレーするつもりだったが。
2015年にフリーランスの身となってからも、山田はトレーニングを1日も欠かしていなかった。フロリダ州のセミプロのクラブからもオファーをもらっていたし、ビーチサッカー大会にも誘われては精力的に汗を流していた。
また、Jリーグの数クラブからもリストアップされていて、帰国時にはFリーグのクラブの練習にも参加させてもらった。現役生活を続けるべきか、指導者への道に進むべきか、それとも――。これまでの経験やフットボールへの情熱をどのように生かすべきか、ずっと模索していた。
岡田オーナーに会った時には、心の中ではフロリダのクラブでプレーしようという考えが固まりつつあったが、目の前にいる岡田オーナーの“熱”は伝わってきた。
「俺はここで大きな夢を実現させたい。そのためにはお前の力が必要なんだ」
時折鋭い眼光を覗かせながら、かつての名将は自らの夢を熱く語りかけた。そして野望とビジョンとともに、FC今治での事業計画を事細かに説明してくれた。
少し時間をください――。岡田オーナーにそうお願いしたところ、それでも山田のことを口説き始めた。
「いつアメリカに戻るんだ? その前に一度、クラブに立ち寄らないか?」
なんでも次のオフ、チームのバーベキュー大会があるという。その日、山田のスケジュールはちょうど空いていた。今治の地で、木村孝洋監督をはじめ、すべてのスタッフと選手と顔を合わせた。岡田オーナー自らが連れ添い、一人ひとり紹介してくれた。そして決まり文句のように、こんなセリフを付け加えてきたという。
「俺はどうしてもこいつが欲しいんだよ!」
わずか数時間の滞在だったが、すっかり岡田オーナーのペースに引き込まれていた。しかしこの時はまだ、山田の気持ちはFC今治行きには完全に傾いていなかった。