松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
思い通り打てずとも優勝は争える。
PO初戦を突破、松山英樹の自信。
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph bySonoko Funakoshi
posted2015/09/01 11:25
最終日の16番。ラフからのリカバリーを観衆も固唾を飲んで見守っていた。優勝争いではなくとも、松山英樹のプレーから目を離そうとするギャラリーはほとんどいない。
2年前、7打差逆転の可能性を「ほとんどない」と言った。
あれは2年前の夏。まだ松山が米ツアーメンバーになるための挑戦を始めたばかりの2013年のカナディアンオープンで、彼は首位に7打差の24位で最終日を迎えた。大会会場は1日に8打も9打もスコアが伸びるコースだった。首位と7打差をひっくり返して松山が初優勝する可能性は、高くはないが間違いなくあると私は信じていた。
だが、松山は最終ラウンドに挑む前の段階から「1%。ほとんどない」と感じていたそうで、それを知ったとき私は少々ショックを受けた。
米ツアーでは、信じられないような大どんでん返しがしばしば起こる。語り草になるほどの劇的ドラマを20年間のうちに何度も目撃してきた私と、まだ米ツアーに足を踏み入れ始めたばかりの彼とでは、小さな可能性に対する信じ方にギャップがあるのだろうか。
だから彼は「1%しかない」と考え、「1%ある」とは思えないのだろうか。ウソみたいなホントの大逆転劇を自分の目で何度も見たら、彼の「ない」は、いつか「ある」に変わるだろうか。そう思いながら、以後の彼をずっと眺めてきた。だから、バークレイズの3日目を終えたとき、優勝の可能性が「あると思う」と言った松山は、ずいぶん変わったなと思えたのだ。
ドライバーが曲がっても勝つ、というトッププロの戦い。
そう、直に見て感じ取ったことこそが、選手の心身に深く染み入っていく。ジェイソン・デイは2010年の全米プロでマーチン・カイマーと最終日最終組を共に回り、ショットの不調に苦しみながら勝利を掴んだカイマーの姿を間近に眺め、多くを学んだと言った。
「ドライバーが曲がり続けながら、どう耐え、どうスコアを作り、どうやって勝利を掴むのか。あのときのカイマーを目の前で見たことが、僕自身の向上に役立った」
5年後の今年のバークレイズで、デイが「ドライバーはただの一度も思い通りに打てなかった」というほどの不調を抱えながら、2位に6打差で圧勝したことは決して偶然ではない。
勝利の可能性に対する松山の捉え方も、彼がこの2年間のうちに目の前で見て感じ取ったもののおかげで変わったのではないか。
そんなことを考えながら、彼の最終ラウンドを眺めた。