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ドライバーの命を危険にさらした、
タイヤサプライヤー、ピレリの不実。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2015/08/30 10:40
フェラーリ移籍初年度の今季、ここまで2勝にとどまっているベッテル。しかし、危険なタイヤで命を危険にさらすストレスは、レースで勝てないストレスの比ではない。
ブリヂストンに対して、不満の声は聞かれなかった。
ただし、ピレリ以外でもタイヤの事故は発生している。
例えば2007年のトルコGPでは、ルイス・ハミルトンの右フロントタイヤがデラミネーション(表面の剥離)を起こしている。
このとき使用されていたタイヤはブリヂストン。この事故でハミルトンは3位から5位に落ち、2ポイントを失った。
この年、ドライバーズ選手権は最終戦で三つ巴の決戦となるほどの接戦となり、最終的にハミルトンは1ポイント差でタイトルを失った。
しかし、ハミルトンがこの件でブリヂストンに対して不満を漏らす声を聞いたことがない。それはブリヂストン側が事故を起こしてしまったことをまず謝罪し、その後も誠意ある対応を見せていたからである。
「結果的に勝負の足を引っ張ってしまって申し訳ない。事故の原因は調査中ですが、事故の前からチャンキング(表面のゴムが引きちぎれて飛ぶ)の現象が起きていたことが確認されています。ただ、これはハミルトン以外の数台のマシンにも起きていたので、別の要因があった可能性も考えられます。明日、タイヤを一緒の飛行機で持ち帰って、テクニカルセンターで詳細な解析をしたい」(浜島裕英MS・MCタイヤ開発本部長/当時)
マクラーレン、ハミルトンとブリヂストンの信頼関係。
その後、ブリヂストンは翌年に向けてタイヤの構造を改良。さらに1年後のトルコGPではもっとも負荷がかかる右フロントタイヤのネガティブキャンバーを最大4度までにしてほしいと全チームに通達を出す。
それでも、フリー走行で再びハミルトンのタイヤだけに損傷の兆候を発見したブリヂストンは、土曜日のマクラーレンとのミーティングで均等割の2回ストップを提案した。
すると、マクラーレンはさらなる安全策を講じて3回ストップ作戦を採ったのである。
このレースでハミルトンは優勝こそ逃したが2位を獲得し、「5位でもいいと思っていたから、この結果は想像以上。間違いなく、これまでのレースの中で最高のひとつ」とコメントした。
この年もドライバーズ選手権は最終戦までもつれ、フェリペ・マッサとの劇的な争いの末にハミルトンがチャンピオンを勝ち取ったが、それもトルコGPでの2位があったからにほかならない。
これが、モータースポーツにおけるあるべき信頼関係ではないだろうか。