沸騰! 日本サラブ列島BACK NUMBER
サラブレッドが余生を過ごす場所。
「馬愛」に溢れた養老牧場を訪ねて。
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byAkihiro Shimada
posted2015/08/08 10:50
ホーストラストを切り盛りする酒井政明さん。左手でなでているのは、テイエムオペラオーなどと同い年のエイシンキャメロン。
震災の時は、馬運車で南相馬まで被災馬を助けに。
少しずつ馬が増え、共和町の厩舎と放牧地だけでは手狭になったので、'13年、岩内に本部を移して現在に至る。
30頭ほどのうち17頭は「スポンサーホース」として、1頭あたり毎月1口3000円を12口、計3万6000円を会員から集め、1口馬主のような形で養っている。8頭は個人オーナーからの預託馬で、8人のうち2人は現役の競走馬も持つ馬主だという。あとの馬はホーストラスト北海道が所有している。
私が初めて酒井さんに会ったのは、'11年の5月、東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故の被災馬を取材しているときだった。相馬野馬追に出ていた被災馬を、北海道から馬運車で福島県南相馬市まで行って助け、自身の牧場に連れてきた人がいる――ということを「北海道新聞」の記事で知った。それが酒井さんだった。
そのとき連れてきた2頭のうちの1頭、ウルヴズグレン(セン16歳)は、私が学生のときから親交のある小桧山悟調教師が管理していた馬で、今もホーストラスト北海道で元気にしている。
「できるだけ自然に近い形で暮らせるようにしています。養老牧場というものがまだあまり知られておらず、かわいそうな馬たちを飼っているという暗いイメージを持たれていると思うんです。そうではない、ということを理解してもらいながら、馬たちがたくさんの人に必要とされるようになってほしい。将来的には、ニセコの乗馬施設をここに移して、地域の人たちがもっとたくさん集まれる場所になるといいな、と思っています」
競技会に出るわけでも、祭りに参加するわけでもない生活。
ここにいる馬たちは、競技会に出るわけでも、祭りに参加するわけでもなく、好きなときに厩舎の大部屋と放牧地を行き来し、草を食べたり、ゴロ寝したりと、ただ平和に日々を過ごしている。「ただ生きる」ということがいかに大変かは、人間もある程度の年齢になると思い知らされるが、馬たちを楽しそうに支えつづける酒井さんの熱意には、いつも感心させられる。
「自然体の馬を見ていると、飽きません。大変だと思ったことはないですよ。ぼくが一生馬といるために、好きでやっているだけですから」
厩舎も放牧地も、もちろんプロの大工の手を借りてはいるが、酒井さんらスタッフの手作りだ。彼らの馬への愛情と、馬たちの幸せそうな姿は変わらないが、放牧地の形や広さなどは、行くたびに変わっている。
人と馬との共生の形を模索しつづける酒井さんたちの活動を、これからも見ていきたいと思う。