野球善哉BACK NUMBER
栗山流“全員野球”の重要選手に。
石川慎吾の情熱、暴走、右方向。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2015/07/29 10:50
パワー、スピード、肩と抜群の身体能力を誇る石川慎吾。まだ22歳だが、ドラフト3位の逸材が潜在能力を発揮する日は近い。
「右方向へ長打を打てるのが良いバッターの証」
もっとも田中がそれだけ激怒したのは、石川の野球への情熱を知っていたのはもちろん、それ以上に石川の持って生まれたある才能を高く評価していたからでもある。大阪を代表するスラッガーとして注目を集める前から、田中は石川をこう評している。
「右に長打を打てるのが良いバッターの証なんです。例えば僕の教え子では、元木大介(元巨人)がそうでした。慎吾は右に大きいのが打てる選手。これはプロにいける要素やと思うんです」
今季の石川が力を見せつけているのも、その「右方向へ長打が打てる」という持ち味があればこそだ。
開幕は一軍で迎えたものの、3月30日からは二軍生活。その間に、同じ右の外野手である矢野謙次が移籍してくるなど悔しさをかみ締めていたが、6月12日に矢野と共に一軍へ昇格した。そして、6月28日の西武戦でスタメン出場を果たすと、相手先発の左腕・菊池雄星から、右中間に一発。この試合は、菊池vs.メンドーサによる投手戦の展開だったが、その中での一発は石川の存在価値を証明するものだった。試合後のヒーローインタビューでは「右方向は自分の持ち味なので、それが出てよかった」と話している。
石川「しっかり捉えれば、右も左も関係ない」
長打が持ち味のバッターというと、右打者であればどうしても左翼方向へ引っ張ってしまいがちになるが、石川にはそうした無茶なスイングは見受けられない。石川にとっての打撃の神髄とはどのようなものか。
「なんなんでしょうね。昔からそういうスタイルだったんで、特に右方向を意識しているわけでもないんです。ただ、だいたいの人は左には飛ぶけど、右には飛ばないと思っているじゃないですか。僕にはそれがないんです。右も左も関係なく、しっかりと捉えることができれば、打球は飛ぶものだと思っています。そして常にフルスイングする。それは、高校時代から変えていないです」
確かに、石川のミートポイントは通常よりもやや捕手寄りである。最後までボールをしっかり見て、速いスイングでボールを捉えるからこそ、右方向へも飛ばすことができるということなのだろう。田中によれば「高校にスイングスピードを測定する機械があって、業者の方が言うにはT-岡田さん(オリックス)山田哲人さん(ヤクルト)の高校時代より上だった」そうである。
先述の菊池雄星からの本塁打はカーブを打ったものだが、しっかり引き付けてからの力強いスイングだったし、この3連戦の3試合目、26日の西武戦の9回表、高橋朋から二塁打を放った打球も、十分に引き付けてから右翼線に力強い当たりを打ち返していた。
現在、石川の対左投手打率は.438。まだ打席数がそう多くないとはいえ、強打者としてのイメージを残せているのは間違いない。栗山監督が「全員の力」という時、石川の存在も大きく感じられていることだろう。