野球善哉BACK NUMBER
栗山流“全員野球”の重要選手に。
石川慎吾の情熱、暴走、右方向。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2015/07/29 10:50
パワー、スピード、肩と抜群の身体能力を誇る石川慎吾。まだ22歳だが、ドラフト3位の逸材が潜在能力を発揮する日は近い。
日本ハムのスカウトが見込んだ「野球への情熱」。
「(高橋のところで代打)そのイメージは持っていました。しっかりと準備ができていたので、その通りの結果が出てよかったです」
2戦目の値千金の一打をそう振り返った石川は、高卒4年目の若手のホープだ。東大阪大柏原高時代から、大阪を代表するスラッガーだった。3年夏の大阪府大会決勝では、絶対王者と言われた大阪桐蔭を下して学校としての甲子園初出場を果たした。この試合では、当時2年生だった藤浪晋太郎(阪神)を、マウンドから引きずり降ろしている。石川とはどんな選手なのか。
「野球への情熱、練習グラウンドでの野球に対する取り組む姿勢がいい。野球が好きで好きで仕方がないっていう、そんなところに惹かれましたね。右方向に長打が打てるというのももちろん魅力でしたけど、何より野球への情熱が印象的でした」
そう語るのは、現日本ハムの打撃コーチで、高校生だった石川の担当スカウトでもあった林孝哉である。
日本ハムのスカウティングには技術だけではない要素があり、その一つに、野球に対する姿勢がある。
どれだけ情熱を持ってやれるかどうか。監督からの命令に従順であるだけではなく、自身の考えで動ける選手かどうか。石川は、その明るいキャラクターと共に野球への情熱が評価されていたのだ。
高校時代には、投手を威嚇して監督を激怒させたことも。
しかし、時にはその情熱が違う方向に進んでしまうこともあった。高校3年夏の大阪大会2回戦・城東工科戦でのこと。優勝候補の一角とされながら、公立の有力校・城東工科に苦戦。終盤まで0行進が続く展開で、石川はその試合で2打数1安打ののち、2四球。2個目の四球は押し出しで貴重な1点が入ったのだが、キャプテンとして自身の一打で勝利に導きたかった石川は「ちゃんとほれ(放れ)や!」と相手投手を威嚇する言葉を発したのだ。
これに当時の監督、田中秀昌(現近畿大監督)が激怒した。田中は上宮高時代に、黒田博樹ら幾多の選手を輩出し、センバツを制している名将だ。田中は「ニューヨーク・ヤンキースの松井秀喜は、甲子園のあの舞台で5敬遠されても、バットを置いて一塁に歩いていった。そやのにお前は、地区大会の、それも2回戦で何を考えとんじゃ!」と一喝したのだ。
その後石川は、「時には熱くなることも必要やと思いますけど、その中にも冷静さが必要だということが分かった」と態度を改めた。彼を語るうえでは忘れられないエピソードだ。