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8番打者に投手を置く、という奇策。
MLBの策士の遊び心あふれる打順論。
posted2015/07/24 11:00
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph by
Getty Images
大リーグ随一の智将として知られるカブスのジョー・マドン監督が、ふと思ったことを実行に移したのは今から2年前。2013年シーズンの交流戦でのことだった。
ロサンゼルスでのドジャース戦。当時ア・リーグ東地区のタンパベイ・レイズを率いていたマドン監督は、敵地での試合のために指名打者が使えなかった。打順を考え直した時、ふとした疑問が頭に浮かんだ。
「誰もが疑問を挟まずに、投手に打順9番を打たせるのはなぜだろう?」
打力に期待できない投手を、打順の最後に打たせるのは当たり前。野球界の常識じゃないか――。だが、極端な守備シフトを採用したり、中軸打者タイプの主砲に1番を打たせたりしたこともある策士は“常識”にも“非常識”にも何らかの理由があると信じている。
そこでマドン監督は、一本の電話をかけた。相手はセントルイス・カージナルスの監督だった名将トニー・ラルーサ(現ダイヤモンドバックス相談役)である。
「トニー、あなたが投手に8番を打たせるのはどうしてなのですか?」
8番・投手の先駆者ラルーサと話した打順の意味。
シカゴの地元TV局によると、メジャーリーグで過去50年にスタメンで「8番・投手」という打順が試されたのは619試合あったというが、その内、432試合がラルーサ監督の指揮下によるものだった。もちろんラルーサ監督も、野球界の常識「9番・投手」の打順を組むことがほとんどだったが、たとえば2008年のシーズンには、最初から最後まで野手に9番を打たせて「8番・投手」の打順を継続した過去があった。
「答えは思った通り、明確だったね」とマドン監督。黒ぶち眼鏡に白髪を逆立てたような独特の風貌。誰に対しても「コミュニケーションを取るのが重要」と考える智将は、球界随一の「話好き」として知られている。メディアにとっては非常に有難い存在だ。
「すべては投手の後を打つ打者のためなんだ。トニーとはそういう話をした。つまり、誰が誰をProtectするのか。それによって、どんなFeedingがもたらされるのかということだ」
たとえばProtectを「守る」。Feedingを「与える」と考えてみる。マドン監督が率いる今季のカブスで守られるのは誰で、与えるのは誰なのか?