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8番打者に投手を置く、という奇策。
MLBの策士の遊び心あふれる打順論。
 

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ナガオ勝司

ナガオ勝司Katsushi Nagao

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posted2015/07/24 11:00

8番打者に投手を置く、という奇策。MLBの策士の遊び心あふれる打順論。<Number Web> photograph by Getty Images

2008、2010年はレイズを率いてア・リーグを制覇。リーグ最優秀監督にも2008、2011年の2度選ばれているカブスのジョー・マドン監督。

将来有望な野手を敬遠から守るために、9番に置く。

「投手に8番を打たせることで、アディソンを『守る』のさ」

 アディソンとは、1994年生まれで21歳のアディソン・ラッセル内野手のことである。現在は二塁手としてスタメンに名を連ねているが、本来は遊撃手だ。2012年のドラフト1巡目(全体11位)指名でアスレチックスに入団した。昨夏、中島裕之(現オリックス)のチームメイトだった時、真夏の緊急トレードでカブスに移籍した有望株である。今季の開幕は傘下のAAA級マイナーで迎えたが、4月21日にメジャー・デビューを果たした。

「新人のアディソンを、敬遠の四球から『守る』んだよ」とマドン監督。理路整然と話すその口ぶりは、まるで物分かりの悪い部下を教育する上司のようだ。

「新人に必要なのは経験だろう? クリス(・ブライアント三塁手。現在新人最多の12本塁打を記録)のように中軸を打ってるわけじゃないラッセルを起用する時、普通は下位打線を打たせようとする。だが、「6番」や「7番」を打たせるならともかく、新人を「8番」に起用することには一つの大きな落とし穴がある……敬遠だよ」

今季、ラッセルの敬遠はいまだ0。

 洋の東西を問わず「8番打者を敬遠して、9番打者の投手と勝負」という場面にはよく遭遇する。新人に経験を積ませたいのに、敬遠の四球で打数が少なくなれば、その目論見は果たされない。ラッセルはデビュー戦で5打数無安打、現在も打率.226と苦戦しているものの、マドン監督の狙い通り前半戦終了時で267打席に立って敬遠の四球は0である。

 確かに、未来の中心選手として期待されているラッセル内野手を四球から「守る」という観点から考えれば、「8番・投手」は的を射ている。ではもう一つの「与える」とは、どういうことだろうか。

「投手に8番を打たせると聞くと、普通は『この投手の打撃が野手並に良いからかな?』と連想するものだが、そうじゃない。9番にどんな打者を置くのかで上位打線への影響力が変わってくるんだ」

【次ページ】 最強打者を3番に置き、9番に野手を置くシナジー。

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