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“水鉄砲”で相手を苦しめる方法。
巨人打線と中島卓也の「アウトの質」。 

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鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

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photograph byNIKKAN SPORTS

posted2015/07/10 11:00

“水鉄砲”で相手を苦しめる方法。巨人打線と中島卓也の「アウトの質」。<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

打率も3割近い数字を残している中島卓也だが、実際の打席での貢献度は数字以上。彼が2番にいることが、チームとしての攻撃の効率性を高めているのだ。

1つのアウトをおろそかにしないことが、相手を苦しめる。

 もちろん監督が一番に願うのは、ベンチの采配などいらないくらいに打線が爆発して5点、6点と取ってくれることだろう。ただ、数年前の強力打線でも毎日、毎試合そんな左ウチワの展開になるわけではなかった。加えていまの惨状である。打席では相手投手をどう苦しませて、どう攻略するのか。そのことを考えて、1つのアウトもおろそかにしないことが求められるということなのである。

 そこで指揮官が求めたのが、アウトの質ということだった。

 狙い球を絞って、ファーストストライクはそう簡単には振らない中島の打席は、たとえアウトになろうとも、質の高さを見せるものである。そういう意識の積み重ねが、結果的には相手投手を苦しめて攻略につながる。打てないときに監督が求めるのは、実は打つことではなく、いかに質の高いアウトをとってくるか。そのための選手個々の意識、ということになる。

井端の凡退と坂本の四球を高く評価した原監督。

 そういう意味で原監督が少し手応えを感じたのが、7月7日のヤクルト戦だった。

 この試合はヤクルトのエース・小川泰弘投手に対して3点を追う6回1死満塁から、5番の長野久義外野手の走者一掃の三塁打で同点に追いつき、阿部慎之助一塁手の犠飛で勝ち越し点を奪って逃げ切るという展開だった。

 ただ、その逆転劇の伏線となった2つの打席があったことは見逃せない。

 最初は先頭の立岡宗一郎外野手が中前安打を放った無死一塁での、井端弘和内野手の打席。当然、この状況で井端にはつなぐために右方向への意識がある。初球、2球目とストライクを見逃して追い込まれたが、それでも右方向にファウルするなど粘ってカウントを作っていった。結果的には右翼へのライナーでアウトにはなったが、小川に8球を投げさせた上での質の高いアウトだった。

 さらに続く坂本勇人内野手も、初球の外角カーブを見送ることから始まって全部で9球を投げさせて四球を奪い取っている。

 結果的には二人で17球を投げさせて小川を追い込み、続く亀井義行外野手の右前打から長野、阿部の逆転劇へとつないでいった。ようやく打線が線としてつながった攻撃を展開できたことが大きかった。

「ポンポンとヒットが積み重なって畳み掛けるような攻撃は、勢いのあるときの象徴だからね。でもいまのうちの打線に必要なのは、きちっとした狙いのある打席の積み上げなんだ。そういう意味では、結果的にはアウトになったけど井端もよく粘ったし、勇人(坂本)もいい形でフォアボールを選んでつないでくれた」

 指揮官も、この2つの打席を高く評価していた。

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