松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
「怒らないようにしようと思うっすよ」
全米OP初日、松山英樹の“我慢”。
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph byJun Hiraoka
posted2015/06/19 13:10
この日は2度もバンカーからの華麗なリカバリーを見せた松山英樹。パットが決まりだせば一気にスコアが伸びそうな気配だが、果たして。
「もう、あんまり怒らないようにしようと思うっすよ」
前半に2つスコアを伸ばし、後半は2つ落とし、イーブンパーの70、26位タイで終えた初日。松山は、このラウンドをどう咀嚼しようとしているのかが気になった。
7番のダブルボギーは「もったいなかった」。そこで落としたスコアを8番で取り返せなかったのは「悔しい」。そんな率直な気持ちは手に取るように伝わってくる。
だが、悔しさの中ですぐさま前を向くポジティブな“大人”の姿勢は、昨年まではまだまだ苦手としていたけれど、今年の松山には見られる。悔しくても、唇を噛みしめながらも、彼は少しずつ“大人びて”きている。
この日もそうだった。2オンに成功しながらパーどまりになった8番は、本当は悔しいけれど「ボギーじゃないんで。切り替えて(明日)できたらいい」。9番も「ボギーで終わるのとパーで終わるのは、だいぶ違う」。
悔しがるより、静かに前を向く。そんな松山を眺めていたら、今年の始めごろ彼がふと口にした言葉が蘇ってきた。
「もう、あんまり怒らないようにしようと思うっすよ。あんまり怒っても、しょうがないなって思って……」
カッとせず、短気を起こさず、我慢を重ねる戦い方。それは、今年の松山がひっそりと実践している新たな挑戦なのだ。
とはいえ、18ホールを戦う4時間半、ずっと歯を食いしばり険しい顔をしているわけじゃない。ショットとショットの間では白い歯をのぞかせ、笑顔を見せる。ときには視線をプレーしているホール以外にも向け、気持ちを切り替えたり、気を紛らせたり。
その代わり、いざショットに入るときの集中の度合いは、以前より格段に深く高くなっている。
背後で拍手喝采が沸き起こっても、集中は途切れない。
そう、この日もそうだった。15番は169ヤード、打ち下ろしのパー3。左右に細長く伸びたグリーン上の1点を狙い、松山がアドレスしたそのとき、背後の14番グリーンで割れるような拍手喝采が沸き起こった。だが、松山の耳にはまったく聞こえていない様子。仕切り直すこともなく、何事もなかったかのようにショットして、ピン右4メートルへピタリと付けた。
気持ちのスイッチを入れたり解いたりすることで、プレッシャー下でも集中力を長く維持する。「1回切れてしまったら、どこまででもスコアは崩れていく。だから、切らさないように、切らさないように、やっています」