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室伏広治の20連覇という偉業に思う。
肉体への理解度と、尽きない探究心。
posted2015/06/22 10:40
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
AFLO
6月26日から28日まで新潟県デンカビッグスワンスタジアムで行なわれる日本選手権を前に、ハンマー投げの室伏広治が大会に出場しないと発表した。
実は今春には、室伏は日本選手権に出場する意向を示していた。しかし欠場を決めたことで、昨年の同選手権まで20連覇を継続していたから、その記録も途絶えることになる。
途絶えることになったとはいえ、20連覇の重さは果てしない。
参考までに他の連覇の記録を見ると、体操の内村航平が今春、全日本選手権個人総合で8連覇を飾っている。レスリングの吉田沙保里は全日本選手権55kg級で2002~2011年に10連覇(2012年大会欠場)。柔道では谷亮子が1991~2001年の全日本選抜体重別48kg級を11連覇。ウェイトリフティングの105kg超級では太田和臣が今年6月、9連覇を達成している。
同じ陸上ではやり投げの村上幸史が2000~2011年に日本選手権を12連覇し、400mの金丸祐三は昨年まで10連覇で記録は継続している。
また冬季競技では、佐藤信夫がフィギュアスケートで1957~1966年に10連覇、スピードスケートの橋本聖子が全日本選手権で1982~1990年に10連覇、という記録がある。
これらの連覇の記録もまた、どれも大きな価値あるものだ。しかしそれらと比べることで、室伏の記録の大きさもまた感じられる。
連覇とは、大会欠場につながる大きな故障がなかったことを意味する。20年間休むことなく出場してきたからこその20連覇である。もちろん、トップレベルを維持してきた結果でもある。
あらゆるトレーニング方法を取り入れる探究心。
ベテランの域に入ってきてからは、体力面と戦いながら競技生活を続けてきた。19連覇となった2013年の日本選手権では、こんな言葉を口にしている。
「挑戦する気持ちは変わりませんが、やり方は全然違います。10年前と同じやり方をしていたら、怪我で引退していました」
「練習の量より品質を求めてきました」
アテネ五輪のあと、怪我に苦しむ時期があった。それからは、怪我をしないでトップレベルを維持するにはどうすればいいのか、試行錯誤を繰り返してきた。
赤ん坊の動きをヒントにフォームを研究したり、感覚を養うため投網をしたり、ロンドン五輪のあとには、イスラム圏で伝統的に用いられている肉体鍛錬の方法である「ズルハネ」も導入した。
そのどれもが、ハンマー投げのためのトレーニングになると思いつくのはきわめて難しいものばかりだ。しかもそれらが効果的だったことは、室伏の実績が物語っている。