ブックソムリエ ~新刊ワンショット時評~BACK NUMBER
ナイーブな少年、最速アスリートになる。
~『ウサイン・ボルト自伝』を読む~
text by
幅允孝Yoshitaka Haba
photograph byWataru Sato
posted2015/07/01 10:30
『ウサイン・ボルト自伝』ウサイン・ボルト著 生島淳訳 集英社インターナショナル 2300円+税
ジャマイカのコクシースという人里離れた美しい村。西インド諸島からの逃亡奴隷「マルーン」が守備要塞として使い、イギリス軍と戦ったこの場所に、最速の男は生を受けた。ちなみに産まれた時から彼は9.5パウンド(約4300g)もあったらしい。
『ウサイン・ボルト自伝』は、現在のところ霊長類最速の男が初めて語るバイオグラフィ。意外にママっ子だった幼少期の回顧や、破天荒で厳しい父。信仰に関する正直な告白もあれば、さぼり癖が抜けないと自認する場面もある。つまり、ボルトの物語は実に正直で潔い。
「俺」という一人称で自身の活躍を語る点は、『I AM ZLATAN』等の英雄録に近い第一印象。けれど、初の海外遠征でホームシックにかかり涙を流し、人生で初めて飲んだ炭酸水に驚愕する少年のナイーブさは、どちらかというと可笑しみを誘う。14歳で身長は187cmまで伸びたのに、心はまだ子供だったのだ。