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岩崎恭子と同期の36歳・稲田法子。
日本選手権・背泳50m優勝に思うこと。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2015/04/26 10:40
36歳にして「覚えていないくらい久々」という表彰台の真ん中に立った稲田法子。3位の酒井夏海は13歳の中学2年生だ。
「技術を磨けば磨くほど、速く泳げます」
今回の日本選手権の50m予選では、28秒29の自己ベストをマークしている。
「こうしてタイムが出て優勝できるのも楽しいですし、泳ぐことが今とても楽しいです」
スタンドに笑顔を振ったあと、優勝インタビューでこう語ったが、彼女に「楽しい」と感じさせているのは、今大会での成績だけではない。
稲田は渡米後、以前に比べて極端に練習量は減ったという。一方で、アメリカ人コーチの下でオーストラリア・パースの海で泳ぐ独特のトレーニングを取り入れるなど新たな練習方法に取り組んできた。
昨年のジャパンオープンでは、こんなことも言っていた。
「技術を磨けば磨くほど、速く泳げます」
たしかに、体力は若い頃がピークなのかもしれない。だが体力の衰えは、経験を重ねて得られる視野の広さや知性によって、補うことができる。進化することさえも不可能ではない。
稲田のここまでの道のりを見ていると、そう感じざるをえない。
挑戦する意欲があれば、光は失われない。
そして新たな練習法や技術との出会い、つまり「発見」があったからこそ競泳を楽しみ、今日まで継続してきたのではないか。そうも感じる。それは「挑戦を続けている」ということでもある。
稲田の姿が伝えているのは、挑戦する意欲があれば光は失われないということだ。たとえ日本代表になれなかったとしても、その過程には意味があり、見るべきものがある。
たとえ競技から離れても、アスリートとして育んだ姿勢を持ち続ける人たちもいる。
昨年から深夜のニュース情報番組で時折目にする元選手の姿にも、やはり「挑戦」を感じたし、留学を志した元選手にもそれを感じた。引退後のそうした選手たちの姿からも、伝わるものがあるのだ。