松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
笑顔のような、仏頂面のような表情。
松山英樹、マスターズ5位を振り返る。
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph byAFLO
posted2015/04/13 13:15
最終18番ホールをバーディーで締め、ガッツポーズを見せた松山英樹。優勝の可能性がほぼ消えても集中力が途切れないのが彼の強みの1つなのだ。
最終日も、スピースは強かった。
午後2時10分。1番ティに立った松山は3番ウッドを握った。第1打はフェアウェイを外れて左ラフへ。そこからの第2打はグリーン奥へこぼれた。観客の椅子を自ら抱えてどかし、そして挑んだチップショット。グリーン手前でワンクッションが入り、それからグリーン面を転がり出したボールは、最初はカップに届かないのではと思えるほどスローな転がり方だった。しかし、止まりそうで止まらないそのボールはカップへにじり寄っていった。大きな拍手と歓声を浴びたあと、しっかりと1mのパーパットを沈めた。
見事なリカバリー、見事なパーセーブで観衆を沸かせ、好発進を切った。だが、2番も3番も4番もわずかにグリーンをこぼれ、パーセーブが精一杯。
最終日のグリーンは「少し固くなっていた」。その「少し」が松山のボールをわずかにグリーン外に弾き出し、なかなかバーディーチャンスが作れない。そうこうしているうちにティオフしたスピースは、1番からいきなりバーディーで発進し、3番でもバーディー獲得。松山とスピースとの11打の差は、縮まるどころか、一時は13打差まで広がっていった。
スピースとの差ではなく、自分のベストを。
だが実を言えば、松山は最終日をスタートする段階で、すでにスピースとの差を「あんまり気にしてはいなかった」。それは、現実派の松山らしい割り切りだったのだろう。小さな小さな可能性を夢見て無茶な希望を抱くのではなく、自分ができる最大限のことをする。それが結果的に小さな可能性につながってくれれば儲けもの。考えてみれば、それが、松山の「いつも通り」の姿勢だった。
「自分がベストなプレーをして、少しでも(スピースとの)差を縮められたらいい」
パーばかりが続いた1番から7番までの停滞感を打ち破るきっかけになったのが、パー5の8番だった。グリーン手前から絶妙に寄せて楽々バーディーを奪うと、10番は1m、11番は8mを沈めて連続バーディー獲得。日頃から「バーディーが一番」が口癖の松山らしく、彼の全身に活気が溢れた。
12番は8mのバーディーパットがカップを舐めて外れ、思わず天を仰いだが、次なる13番(パー5)が圧巻だった。