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テニスの魅力を増幅する「修造さん」。
的確な分析解説と、プレー中の沈黙。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAFLO
posted2015/02/09 10:40
バラエティ番組などで見せる破天荒なキャラクターとは裏腹に、テニスとなると精緻な解説を見せる松岡修造さん。テニスというスポーツは幸運である。
日本人を応援しすぎない、というスタンス。
今回の中継を見て、松岡さんの魅力がWOWOWの演出とマッチングしたのも大きかったと思う。
まず、今の日本で大事なのは「応援実況、応援解説」にならないことだと私は思う。この20年、どのスポーツでも日本人が絡むと、どうしても目線がドメスティックになる傾向が強くなっていたが、私はこのスタイルが好きではない。
もともとWOWOWの実況はバランスが良い。たとえ錦織がプレーしていても、相手選手の解説をしっかりやるし、極端に「錦織、行け!」というような実況・解説はしない。
思えば1980年代までは、こうした実況が日本の中継のスタンダードだった。
しかし、いまはWOWOWの放送席が極めて先進的に見えてしまう。
今回の中継に大いに満足したのは、スポーツ中継の本質、基本的な「マナー」が守られていたから、という要素もあるだろう。
松岡さんは基本的に、プレー中には言葉をはさまない。じっくりとプレーを見ている。我々と一緒だ。
テニスの解説で最悪なのは、プレーが始まっているのに関係ない話を続けてしまうことだ。視聴者と一緒にじっくりとプレーを見る、この「基本」が大事なのだ。
また、「錦織選手」と「圭」という言葉の使い分けも面白かった。「選手」と話すときは、冷静な解説者の目。しかし、思わず「圭」と言ってしまう時は、気持ちが入っている証拠だ。その心の変化が視聴者とシンクロしていた。
2015年は、錦織のプレーだけではなく、「修造さん」の解説も楽しめたらいいなと思っている。