スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
テニスの魅力を増幅する「修造さん」。
的確な分析解説と、プレー中の沈黙。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAFLO
posted2015/02/09 10:40
バラエティ番組などで見せる破天荒なキャラクターとは裏腹に、テニスとなると精緻な解説を見せる松岡修造さん。テニスというスポーツは幸運である。
わかりにくい試合の「流れ」も言葉に変える。
そして「流れ」についても、松岡さんは教えてくれた。
錦織対ジョンソンの3回戦第1セットの出だし、錦織の調子が良かった。第1セットの第5ゲーム、錦織がゲームカウント3-1とリードしている場面で、ブレークのチャンスがあった。
「(錦織が)何を打っても入る『スーパーゾーン』に入っていきそうな感じがあります。しかし、そのことをいちばん分かっているのはジョンソンです」
どうなったか?
ここで、ジョンソンはリスクの高いサーブを選択した。勝負に出て、結果的にサービスゲームをキープする。
逆にチャンスをものにし損ねた錦織はここからリズムを乱し、次ゲームでブレークを許してしまう。ひとつのポイントが流れを大きく左右したのだ。松岡さんはこう解説した。
「これが『テニス』なんでしょうね。さっき、ブレークのチャンスがあった。それを逃して、今の錦織選手は攻めるのか、我慢するのか迷っているところだと思います」
次々に現実になる松岡さんの言葉。
結局、ジョンソンが第1セットをタイブレークで奪ってしまう。テニスという競技の「怖さ」を松岡さんは適切に解説してくれたのだ。
第1セットを奪われ、視聴者は不安になっただろう。しかし、第2セットにはこんな言葉も聞かれた。
「ジョンソン選手のこの調子は、続かないと思います。そうだったら、ランキング30位あたりにいませんから」
その通りだった。最終的に錦織が3-1で4回戦進出を決めたが、この試合ひとつとってみても、松岡さんの解説が「鑑賞眼」を磨くのに役立ったことは間違いなかった。