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J2北九州の“悲劇”から考える。
「FFP」って何のための制度なの?
text by
並木裕太Yuta Namiki
photograph byAFLO
posted2015/01/02 10:50
交代人数の増加案など、制度改革に積極的に取り組むミシェル・プラティニUEFA会長。ファイナンシャル・フェアプレー制度も徐々に効果を発揮しつつある。
“補強中毒”とでもいうべきチキンレース。
クラブのオーナーたちは大型補強を断行してタイトルを手にすれば、長期的にはクラブの経営に貢献するはずだとの思いから、いわばギャンブル経営に手を染めていたのです。オーナーが個人的な資金を投入したり、借金をしてまで補強に走るクラブも少なくありませんでした。
ライバルチームも同じギャンブルをするなか、自分のチームだけ弱腰の経営をするわけにはいかないという事情もあったでしょう。まさに“補強中毒”とでもいうべき状態が生まれ、経営破綻まで突っ走らざるを得ないような異様な状況でした。
そこで、UEFA会長のミシェル・プラティニは次のように指摘しました。
「会社経営、そして企業経理の原則はシンプルだ。大規模の事業で赤字の企業よりも、中規模の事業で利益を出している企業の方が事業価値は高い(筆者注:赤字の企業は本来事業価値はゼロ)。サッカークラブのオーナーたちは、身の丈に合わない資金を投入し、チームの補強にそれを使い、自らの事業価値を下げている」
そして、こう続けています。
「多くのオーナーは『勝ちたいから、自分だけこのスパイラルから抜け出すことはどうしてもできない』と言う。だからUEFAとして、身の丈にあった経営を欧州全体に広めるべく、FFPの導入を決定した。これには多くのクラブオーナーたちが賛同してくれた」
ここで2009年当時の欧州5大リーグの経済状況を整理してみましょう。
レアルでさえ、借金は増えていた。
借金総額の過半を占めていたのは、プレミアリーグ、セリエA、リーガエスパニョーラの3リーグです。
プレミアは20チーム合計の借金が31億ポンド(当時の平均為替レート1ポンド146円で計算すると4500億円)。
セリエAでは黒字だったのはわずか4クラブで、ミランは7000万ユーロ(1ユーロ130円で計算すると91億円)もの赤字を垂れ流すような有様でした。またインテルは、16季連続で赤字を計上し、累積額は13億ユーロ(同1690億円)に達していたともいいます。
リーガはスペインの不況により多くのクラブが赤字経営を余儀なくされていたにもかかわらず、最も移籍金を払う習慣のあるリーグでした。放映権料が上昇していたレアル・マドリーでさえ、大型補強の影響でクラブの借金は増えていたのです。