甲子園の風BACK NUMBER
斎藤監督と横山部長の名タッグ。
聖光学院を前進させる“2人の監督”。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byRyuki Matsuhashi
posted2014/08/27 10:30
聖光学院の斎藤智也監督(左)と、横山博英部長。横山部長は高校野球界の名コーチ、横浜の小倉清一郎氏とも交流があった。
決勝先発の今泉は、直前までBチームの選手だった。
そして今年のチームにも、横山部長の指導によって覚醒した選手がいた。
甲子園でも登板した今泉慶太である。
聖光学院では、毎年夏の県大会直前にAチームとBチームの間で壮行試合が行なわれる。今泉はその試合でBチームの先発を任され、完投した。その好投で滑り込みのベンチ入りを果たした2年生右腕は、県大会準決勝で8回を無失点に抑え、決勝でも先発マウンドに上がるなど瞬く間に主戦投手となった。
斎藤監督の言葉を借りれば「投げ方は不格好。でも、ゲームを作る力がある投手」。ストレートの最速は130km台後半だが、チェンジアップの精度が抜群。しかし横山部長には一つだけ気がかりがあった。それは、メンタル面。
激しい言葉で奮い立たせようとすると、逆に緊張して萎縮してしまう。そこで横山部長は、甲子園初戦の前夜、手紙で自らの想いを今泉にぶつけた。
<Bチームの先発として投げてAチームに勝ったんだぞ。県大会でも準決勝と決勝の大舞台を経験して、甲子園のマウンドにだって立てるんだぞ。そのことをありがたいと思わないとダメだよ。重圧なんて感じなくてもいいけど、緊張して潰れたとしてもそれはそれで経験だから。でも、大胆、丁寧、熱く。この気持ちだけは忘れずに投げてほしい>
「あれが、あの今泉ですか? 同一人物か!」
今泉は、「育ての親」の期待に応え甲子園で躍動した。
先発を託された初戦の神戸国際大付戦で6回1失点。3回戦の近江戦でも6回途中1失点と粘り、勝利に貢献した。横山部長をして「あれが、あの今泉ですか? 同一人物か!」と驚嘆させ、指揮官を「マウンド捌きが落ち着いている。試合を任せられるピッチャーになった」と唸らせるほど、加速的な成長ぶりだった。
今泉は、言葉を噛みしめながら横山部長への感謝を口にする。
「Bチームにいたときから自分はダメダメで。本当ならチャンスを貰えなくてもしょうがないはずなのに、横山コーチは登板機会を与えてくださったし、練習でもずっと『今泉、今泉』と声をかけ続けてくれていて。手紙まで書いてくださって本当に嬉しくて。あの手紙を読んで、甲子園のマウンドに立つ怖さがなくなったというか、気持ち的に吹っ切れましたし、『横山コーチに報いたい』と強い思いで投げることができました」