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「少ない運動量」と「瞬間的な煌き」。
走らないメッシを支えるチームの献身。
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byGetty Images
posted2014/06/30 11:50
プレッシング、ハードワークという今大会のトレンドに逆行するように、運動量ではなく一瞬の決定的な仕事でチームに勝利をもたらしているメッシ。周囲の理解は十分、念願の王座を手中に収めることはできるか。
温存が、スーパーゴールを生み出している。
所属クラブのバルセロナでも指摘されていたことだが、近年のメッシは明らかに運動量が少ない。大会直前に行なわれたスロベニアとの親善試合では試合中に嘔吐するなど、現在もコンディション調整に苦慮している。
今大会でもグループリーグ3試合を通して、相手がボールを持っている時にメッシは最低限のパスコースだけは切っているもののほとんど歩いているのだ。
ただその温存が、重要な局面でのスーパーゴールを生み出している。初戦のボスニア・ヘルツェゴビナ戦で見せた必殺のドリブル突破以上に、特に冴えわたっているのがキック精度である。
イラン戦のアディショナルタイム、幾重にも張り巡らされた守備網をかいくぐるかのような左足インフロントでの決勝点。ナイジェリア戦の3分、ディマリアのシュートのこぼれ球をインステップで叩き込んだ先制点は、どちらも複数の相手選手がシュートコースを塞いでおり、ボール1つ分あるかどうかのコースだった。
役割を周囲が少しずつ受け持って、エースを支える。
そんな寸分の狂いもないキックは、セットプレーでも存分に生きている。
ナイジェリア戦では前半アディショナルタイムに直接FKでゴールを奪ったが、同じような位置から蹴った44分のFKでは、相手GKエニェアマのファインセーブに阻まれたものの、得点シーンよりも正確にゴール右隅をとらえていた。
またボスニア・ヘルツェゴビナ戦の先制点となったオウンゴールも、フリーキッカーを務めた背番号10の鋭いクロスが誘発したものだ。“フリーキックの名手”のイメージは薄いメッシだが、もしファールでドリブル突破を止められたとしても、FKで脅威を与えられるのは大きい。
「走らない」ことによって羽を休めるメッシ。幸い、以前はメッシがこなさなければならなかった中盤でのボール運びは、今季レアル・マドリーで出色の出来だったディマリアが献身的にこなしている。メッシの役割を周囲が少しずつ受け持つことで、エースの負担を軽減しているのだ。