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ブラジル、PK戦でチリを下し8強へ!
「対極」の戦術が生んだ極上の死闘。
posted2014/06/29 12:30
text by
細江克弥Katsuya Hosoe
photograph by
Getty Images
サッカーの「クオリティー」なら、おそらく時代の最先端にして今大会最高。しかしそのチリをほんの僅かな差で上回ったのは、戦術に特別な新しさも革新性もないブラジルの、王国としての気骨だった。
2001年以降の対戦成績は、ブラジルの12戦10勝2分け。まさに圧倒的と言える戦績だが、指揮官ルイス・フェリペ・スコラーリはむしろ、明らかにチリを恐れていた。本大会の組み合わせ抽選が行なわれた昨年12月、抽選結果を受けて彼はこう話している。
「チリが決勝トーナメントに進出しないことを願っているし、できればチリ以外の国と対戦したい。チリはとてもよく組織されており、賢さもある素晴らしいチームだ。だから、欧州のチームと対戦するほうがいい。システムと戦術が対極にあるチリと対戦すれば、ブラジルは“痛み”を伴うことになる」
試合前日に発したあまりにもネガティブなコメントからも、グループリーグの戦いを見てさらに警戒心を強めていたことが分かる。
「チリのパフォーマンスは良くなっている。我々を苦しめることもできるし、我々が倒されることもあり得る。もちろん勝つための準備をしてきたが、仮に負けても人生は続く」
スコラーリの懸念が具現化した120分間の死闘。
百戦錬磨の名将がそれほどまでに恐れた理由――それは確かに、120分間の激闘に詰まっていた。
チリのサッカーは、ストロングポイントを「前」、ウィークポイントを「後ろ」に持ち、ストロングの“強度”でウィークを消そうとするスタイルである。
コンパクトな守備陣形を維持し続けるためのハイプレスと、それを可能にする圧倒的な運動量。さらに相手のキーマンをマンツーマンで潰す戦術は、前回王者スペインのアイデンティティーと言える「ポゼッションサッカー」を完全に凌駕した。スペインはチリの弱点である最終ラインの脇のスペースを使いたい。しかしチリは、「前」をケアすることで「後ろ」を使わせない。そうして弱点を消す戦術が見事にハマった。