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伝統のモナコGPのもうひとりの勝者。
マルシア、5年目の初入賞の立役者。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byAFLO
posted2014/06/01 10:30
レース後、ジュール・ビアンキの9位入賞を祝うマルシアチーム。ケータハム、ザウバーを抜きチームランクで9位となった。
「ブースはレース界のレジェンドだよ」
その後、'89年限りでレーシングドライバーを引退したブースだが、レースへの情熱が消えたわけではなかった。'90年に設立したのが、マノー・モータースポーツである。'91年と'94年、そして'97年にはフォーミュラ・ルノーを制したブースは、'99年にイギリスF3選手権に参戦すると、ジェンソン・バトンらを抑えて、いきなりタイトルを獲得するのである。この年、マノーにチャンピオンシップをもたらしたのがマーク・ハインズ。彼は現在もチームでドライバーのコーチ役を務めている。ハインズは言う。
「ブースは元々レーシングドライバーだっただけでなく、私が'99年にイギリスF3を勝ったときの、私のレースエンジニアも務めていた大ベテラン。レース界のレジェンドだよ」
その後、ブースは自らのチームでキミ・ライコネンやルイス・ハミルトンらを走らせるなどして成功を収め、2010年にF1へ進出。5年間同じ人間がチーム代表を続けているのも、新興チームではマルシアだけ。全チームを見渡しても、ブースのほかに2010年から引き続き代表を務めているのは、レッドブルのクリスチャン・ホーナー、ウイリアムズのフランク・ウイリアムズ、フォース・インディアのビジェイ・マリヤ、トロロッソのフランツ・トストの4人しかいない。
チーム代表に目立つ、ビジネスマンたちの顔ぶれ。
これは現在のF1がより経営的な手腕を問われ、人事異動が頻繁に行われるようになったことが関係しているのだろう。チーム代表の顔ぶれを見ても、レース屋というよりも、ビジネスマン的なキャリアを歩んできた者の出入りが目立つようになっている。昨年限りでマクラーレンの代表を降りたマーティン・ウィットマーシュもそうだし、今春、交代劇があったフェラーリの新旧の代表も同様だ。
もちろん、F1はスポーツであると同時に年間数百億円の予算で戦う一大ビジネスでもあるから、経営に長けた人材が必要になることも理解できる。しかし、モータースポーツである以上、観客に感動を与えるのは、ビジネスではなくレースである。それは、かつてブースがシルバーストンで血湧き肉躍るほど興奮したときと、何も変わっていない。