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長谷川穂積、渾身の打撃戦で散る。
世界15戦目で見せ付けた“集大成”。 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byHiroaki Yamaguchi

posted2014/04/24 11:45

長谷川穂積、渾身の打撃戦で散る。世界15戦目で見せ付けた“集大成”。<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

ロープを背負い、真っ向の打ち合いを受けてたった長谷川穂積。7回でTKO負けを喫したが、長谷川のボクシングの集大成といえる試合を見せてくれたのではないだろうか。

世界王者になるまで、長谷川のKOはわずか5つだった。

 世界王者になるまでの長谷川は決して派手な打ち合いをするような選手ではなく、典型的な技巧派サウスポーだった。'05年にウィラポン・ナコンルアンプロモーション(タイ)を下して世界王者になるまでの戦績は19戦して17勝。KOはわずかに5つだった。これが王者になってから一変する。10度の防衛のうち実に7度がKOで、V6からV10までは5連続KO防衛を記録した。バンタム級時代に倒しまくった長谷川にとって、一度覚えたKOの味、リスクを冒しても倒しにいくボクシングは、簡単に忘れられないというよりも、それ自体が長谷川のボクシングと化していたに違いない。

 打ち合っても負けない。そんなプライド、ただの強がりではなく、技術に裏付けされたプライドも長谷川にはあった。長谷川はロープを背負った攻防を「好きだ」と語っていた。まさに2回のダウンシーンのような場面である。逃げ場の少ないロープ際やコーナーは一般的に危険とされるエリアだが、長谷川の考えは違ったのだ。ロープ際はリスクはあっても、相手の攻撃が限定されるため、カウンターをとりやすいのだと。目がよく、高速で連打を繰り出せる長谷川ならではの感覚だろう。しかし、その自信はマルチネスに対して裏目に出てしまった。

「勝っても負けても、納得できる状態で」

 では、長谷川が単に軽率だったかと言えば、それは違うと思う。2月に開かれた世界戦発表記者会見で長谷川は意味深なセリフをいくつも口にした。

「とても長い3年だった。この3年をただの3年にするのか、意味のある3年にするのか。僕にとってはひとつの集大成となる」

「ひとつ目は若さと勢い、2つ目は(試合直前に亡くなった)母親のためだったので、3つ目は自分のため。素直に自分がどこまで強いのか知りたい」

「勝っても負けても納得できるような状態にしてリングに上がりたい」

 長谷川は自分の納得のいくボクシング、自分がやりたいボクシングを、大阪城ホールのリングで実践するつもりだった。勝利の可能性を追求した結果のボクシングではなく、あくまで長谷川穂積が求めるボクシングを実行し、そして勝つつもりだった。その結果がマルチネス戦だった。その意味で長谷川は見事なまでに集大成というものをファンに見せつけたと言えるのではないだろうか。

【次ページ】 試合後、弟分を逆にいたわる33歳の姿が。

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