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<伝説的ランナーの食生活とは> ベジタリアン・アスリートの素顔。 ~スコット・ジュレク&デイヴ・スコットに聞く~
text by
飯塚真紀子Makiko Iizuka
photograph byRyuichi Oshimoto
posted2014/04/15 10:00
それぞれ「レジェンド」と呼ばれる2人のアスリート。
彼らに菜食で走ることの魅力や問題点などについて聞いた。
好評発売中の雑誌Number Do『RUN&EAT あなたの「走る」が「食べる」で
変わる』より、スコット・ジュレクとデイヴ・スコットの
連続インタビューを一部公開します。
コロラド州ボールダーにあるアルファルファ・マーケット。地元で採れた新鮮野菜を中心に販売するこのスーパーに、週に数度、食材の買い出しに来る男がいる。
ケール、椎茸、ジンジャー、ターメリック……。男は、ショッピングカートに“いつもの野菜たち”を次々と入れて行く。細面の顔に黒ぶちのメガネを身につけた、ちょっと“オタク”を思わせるルックス。そこからは、彼が成し遂げて来た偉業を想像するのは難しい。
彼こそ、トレイルランニング界の伝説の男、スコット・ジュレクなのだ。
スコットは、“ウエスタンステイツ・エンデュランスラン”という名レースで7連覇を遂げ、“バッドウォーター・ウルトラマラソン”という灼熱のデスバレーを走る大会では2度優勝。24時間走ではフルマラソン6回半分の距離、266.01kmを走り、アメリカ記録を樹立した。
まるで超人だ。
完全菜食主義者=ヴィーガンになったきっかけとは。
しかし、彼のような超人がいったい何を食べているのかを想像するのはもっと難しい。そして、何を食べているかを聞いた人はみな眼を丸くするだろう。なぜなら、彼は、野菜しか食べない完全菜食主義者=ヴィーガンだからである。
狩猟や釣りが生活の一部になっているミネソタ州生まれのスコットは、もともと野菜嫌いな少年だった。幼少期食べていたのはミートやポテトが中心。ハイスクール時代はマクドナルドなどのファストフードもよく食べた。
そんな彼の不健康な食生活に、最初に警鐘を鳴らしたのは母親だった。
「母は多発性硬化症で長い間闘病していました。僕自身大学時代、インターンとして働いた病院では、患者たちの貧しい食生活も目にしました。闘病する彼らの姿を見た時、健康の大切さを実感し、食生活を改善しようと決意したのです。アスリートとしてのパフォーマンスを改善するというよりも、健康のために野菜をたくさん食べるようになったんです」
しかし、決意したからと言って、ミネソタの肉やポテトを中心とした典型的なアメリカの食事で育ったスコットが、完全に菜食主義者に移行するのは容易ではなかった。