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予選落ちの意味と、変わらないもの。
松山英樹とマスターズ優勝との距離。
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph byGetty Images
posted2014/04/12 12:30
2日目には71とスコアをひとつ伸ばす健闘を見せたが、カットラインには3打及ばずメジャー初の予選落ちを喫した。マスターズ優勝への挑戦は来年以降も続いていく。
覇者たちと松山の技量の差はどれほどあるか?
昨年のマスターズ覇者アダム・スコットと一昨年の覇者ババ・ワトソンとの間に技量の差がどれほどあるかと問われたら、「どちらも上手い」「2人の技量に大差はない」と誰もが納得するだろう。
それでは、スコットやワトソンらと松山の間に技量の差はどれほどあるのか?
世界ランク50位以内の選手、マスターズに出場できる選手であれば、スコットであれ、ワトソンであれ、松山であれ、技量そのものに大差はないと私は思う。だが、彼らにはマスターズ優勝というビッグなタイトルがあり、松山は優勝や優勝争いどころか予選落ちとなった。その差は、何に起因しているのか?
マスターズに何度出たとか、プロ何年目だとか、米ツアー歴何年とか、そういう長さや量、いわゆる「経験」の差だけではないだろう。それぞれが歩み来た道の途上で、ゴルフ以外の何を学び、どう成長したかの差なのだと思う。
持っているだけではなく、生かし方を覚えてこそ。
一見、取るに足らないような些細な差なのかもしれない。だが、オーガスタという舞台に投影されると、その差がどんどん拡大されていき、優勝と予選落ちという大差に発展する。
スコットはマスターズのみならずメジャー大会や大きな大会で何度も何度も惜敗し、スランプも経験。絶不調と絶望のどん底の中で、チェンジの大切さにようやく気付き、スイングコーチを変え、マスターズへの備え方を変え、'13年大会の覇者になったという話は昨日もこのコラムで書いた通りだ。
ワトソンは昨年大会の際、ディフェンディングチャンピオンならではの行事や業務、取材対応に追われ、「ゴルフに集中できず、グリーンジャケットを諦める結果になった。去年のマスターズは、一昨年の優勝の影響が残り過ぎて二日酔い状態だった」と振り返った。
だが、養子縁組で授かった息子を中心とする新しい生活になったこの2年間の中で「マスターズチャンプ、父親、夫の役割をすべて一緒にこなしているうちに、効率的な時間の使い方、効率的な練習の仕方を覚えた」。
今年のディフェンディングチャンプのスコットは「僕はチャンピオンの行事や役割も楽しんでいる。でも水曜の夜が終わったら、気持ちをゴルフに切り替える」。
マスターズチャンピオンたちは人生や生活の中のいろいろな経験を通じて、タイムマネジメントを覚え、そこからメンタル面のコントロール術も見い出し、それらを生かすことで、持てる技量を100%、ときには120%発揮することができるようになっていく。技術は持っているだけではなく、生かし方を覚えてこその技術なのだ。