日本代表、2014年ブラジルへBACK NUMBER
“不可解なPK”より大切なこと。
シリア戦、薄氷の勝利の意味。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2011/01/14 12:08
前半とうって変わって、後半は我慢を強いられる展開に。
シリアの中盤にサイドを意識させれば、当然次は真ん中が空いてくる。次第に本田もポジションを高く取るようになり、プレスが弱まったことで前に出た遠藤が本田にクサビのパスを入れて、左に展開しようとした場面もあった。全体にパススピードが増し、縦と横、テンポを変える臨機応変な攻撃を取り戻しつつあったことで、追加点は時間の問題かと思われた。
しかし、後半に入ると一転して我慢を強いられる展開となる。
規律と組織的な守備力を誇るシリアがプレスを強めて前に出てくると、日本は受け身に回るようになってしまった。
相手のペナルティーエリア付近でプレーする回数が減り、ジリジリと押されるようになる。そんなときに問題のシーンが起きたのだ。
後半27分、長谷部がバックパスした後、川島が蹴り出したボールを処理しようとした今野が相手と交錯する。そこからゴール前に流れたボールに飛び込んで相手選手と接触した川島が、一発退場とされてしまったのだ。ゴール前に流れてきたボールは、今野の出したバックパスと主審に判断されたため、シリア側のオフサイドとは認定されなかった。日本側は猛抗議したものの、判定は覆らなかった。
PKの是非よりも、受け身に回った時間帯こそが問題。
今野は「ボールに触っていない。もちろんオフサイド」と悔しさをにじませる。イラン人主審のミスジャッジであることは間違いないものの、ただこれを「中東の笛」と決めつけるのは早計だろう。もしシリアに有利な笛を吹こうとしているのであれば、後半37分に岡崎が倒されたとしてもPKは生まれなかったはずだ。見方によってはPKと判断されない可能性さえあっただろう。
結果は勝利に終わったとはいえ、もちろん笑って見過ごせる問題ではない。だが、PKの是非ばかりに目を向けるのではなく、受け身に回ってしまった時間帯の戦いぶりをもっと注視すべきではないだろうか。
先制ゴールを奪いながら、PKのきっかけをつくってしまった長谷部には勝利の笑顔など微塵もなかった。
「もうちょっとうまい試合運びをしないといけない。こうなったのも、(チームとしての)経験の少なさだと思う。今までは上の世代の人がゲームを落ち着かせてくれていたけど、今のチームでは僕ら(の世代)がやっていかなければならないと思う」