MLB東奔西走BACK NUMBER
ボンズの球界復帰で薬物問題が再燃。
禁止薬物と技術の継承、そして殿堂。
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byGetty Images
posted2014/03/22 10:40
古巣ジャイアンツのキャンプで臨時打撃コーチとして、選手たちに指導するバリー・ボンズ(写真中央)。薬物疑惑のために殿堂入りが難しい中で、臨時とはいえ、球界に復帰を果たし、今後の動向が注目される。
2007年に出された『ミッチェル・レポート』。
かつてMLBがステロイド時代を清算する意味も含め、元上院議員のジョージ・ミッチェル氏に真相究明を依頼し、その調査結果として2007年に『ミッチェル・レポート』がまとめられた。
しかし報告書をまとめたミッチェル氏が指摘しているように、これはあくまで証言のあった禁止薬物のルートを検証しただけで、MLB全体の薬物疑惑を解明できたわけではない。現にミッチェル・レポートには名前すら出てこなかった選手が、報告書発表前後、薬物検査に引っかかったりしているのが何よりの証拠だろう。
さらに前述の、ロドリゲスを中心としたマイアミ開業医のスキャンダルにしても、ロドリゲス以外の選手たちは自ら使用を認めて出場停止処分を受け入れただけで、実際には名前の挙がった一部の選手しかMLBの薬物検査に違反していないのだ。これをどう考えるべきなのだろうか。
疑惑はあれど、受け継がれるべき打撃理論はある。
かつてステロイド使用を認めたケン・カミニティ氏(故人)は、選手の半数近くが禁止薬物を使用していたと証言していたが、どう考えてもミッチェル・レポートの検証で今に至るまでの全容が解明されたとするのには無理がある。単にスキャンダルで名前の挙がった選手とそうでない選手の間に、単純な線引きがなされているだけではないだろうか。
このままでは今後も、時折浮上するスキャンダルに名前が挙がった選手だけが犯罪者扱いされ、それ以外は禁止薬物を使用していない選手と同等の扱いを受けるという、ステロイドが蔓延していた“グレー・ゾーン時代”から何も変わっていないことになってしまう。
いつになったら選手たちの偉業を心から称え、殿堂入りを祝福できるようになれる日が来るのだろうか。
ただ、短い期間とはいえ、かつて多くの強打者達からも理想の打撃フォームとして一目置かれていたボンズの現場復帰は嬉しい限りだ。
すでにマーク・マグワイア氏が打撃コーチとして現場復帰して久しいが、薬物疑惑は度外視しても、彼らの打撃理論は球界に受け継がれていくべきものであるはずなのだから。