野ボール横丁BACK NUMBER
楽天・松井裕樹、新人王の条件とは?
田中、則本の2人が通った“分岐点”。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2014/03/17 10:30
オープン戦で、力感あふれる投球を見せている松井裕樹。高校時代も全力投球が持ち味だったが、プロでもその思い切りを持ち続けられるか。
「7、8球に1球ぐらい思ったところにいけばいいかな」
懲罰の意味もあったのだろう、7月6日のソフトバンク戦で初めてリリーフ登板を命じられるが、3回3分の1を無失点に抑え、約1カ月振りに勝ち星を挙げる。そして、そこから5連勝を飾った。
則本にとって、田中にとっての西武戦にあたるのが、このソフトバンク戦だった。
則本の中で変わったもの。それも、やはり腕を振るということだった。
ADVERTISEMENT
「負け始めて、一生懸命放りすぎたのがいけなかったのかなと思って、コントロールを意識したら、腕が振れなくなった。それで逆にカンカン、カンカンいかれるようになってしまった。でも、自分の持ち味は、腕を思い切り振ることですから。リリーフしたときに、それを思い出しました。コントロールなんて、7、8球に1球ぐらい思ったところにいけばいいかな、と(笑)」
田中も、則本も、投げっぷりのよさが持ち味の投手である。そして今シーズン、楽天に三たびタイプ的にそっくりな期待の新人が入団した。ゴールデンルーキーの松井裕樹だ。彼も腕の振りが最大の長所だ。
怖さを知り、それでもなお腕を振る「プロ」に。
2012年夏の甲子園の2回戦で松井を擁する桐光学園とぶつかり、19奪三振を食らった常総学院の監督、佐々木力が話していた。
「あんなに全球、思い切り腕を振ってくる投手は見たことがない。低めのスライダーを見極めさせたいけど、あれだけ振られると、やっぱり手が出ちゃうでしょうね」
その長所は本人も自覚しているはずだ。オープン戦などの登板を見ても、高校時代と変わらず思い切り腕を振れている。
ただ、怖いもの知らずでぶつかれているうちはいいが、おそらく松井もどこかでプロの壁にぶつかる日がくるはずだ。プロの打者の怖さを知る。そのとき、田中や則本のように、腕を思い切り振ることができるかどうか。それはイコール、プロになれるかなれないかの境目でもある。
怖さを知り、それでもなお腕を振るということは、言葉で書くほど簡単なことではない。しかし、そこで「プロ」になれれば、松井裕樹も、田中や則本のように新人王を獲れる可能性は十分に秘めている。