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楽天・松井裕樹、新人王の条件とは?
田中、則本の2人が通った“分岐点”。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2014/03/17 10:30
オープン戦で、力感あふれる投球を見せている松井裕樹。高校時代も全力投球が持ち味だったが、プロでもその思い切りを持ち続けられるか。
田中将大の答えに、思わず拍子抜けしてしまったものだ。
「はあ……、別に具体的にどうこうしたわけではないです」
「ただ、勢いをつけただけ?」
「……はい」
田中将大のルーキーイヤー、2007年のことだ。
開幕から先発ローテーション入りした楽天の田中だったが、デビュー戦のソフトバンク戦で2回途中6失点でKOされるなど、2戦目まではなかなか「らしさ」を出すことができなかった。
しかし3戦目の西武戦を境に田中のなかで何かが変わった。7回を投げ4失点したものの、7回2死満塁のピンチで5番・和田一浩(現・中日)をインローのストレートで見逃し三振に切るなど随所で田中らしさを見せ、当時監督だった野村克也を「ああいうケンカ投法みたいのでいいんだ」とうならせた。
試合後、田中はこう語った。
「いちばん自分らしいピッチングができた。フォームにもちょっと勢いをつけて、腕も思い切り振れるようになった」
「コースをねらい過ぎて、腕が振れなかった」
後日、改めて「何が変わったのか」と尋ねたときの答えが冒頭のやりとりだった。
デビュー戦で高校時代に「消える」と称されたスライダーを簡単に見極められた田中は、以降、コントロールを必要以上に気にするようになった。だが西武戦で吹っ切れ、このあとのソフトバンク戦で見事初勝利を飾っている。
「最初のころはコースをねらい過ぎて、腕がなかなか振れなかった。でも西武戦からいい感じをつかみました」
奇遇だが昨年、同じく楽天で、同じく1年目の則本昂大から同じようなセリフを聞いた。
「腕を強く振るということですね」
WBCで出遅れていた田中に代わり、開幕投手を務めた則本はデビュー2戦目で白星を飾り、田中に比べると順調に滑り出したかに思えた。が、6月後半から3連敗し、監督の星野仙一に「あんな球を投げとったら20点とられるわ」と吐き捨てられるなど、初めてプロの壁にぶつかった。