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マー君“初体験”のメジャー流調整。
「物足りなさ」こそ、順調な証し。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byAFLO
posted2014/02/21 10:45
サバシア、黒田に続く3番手としての起用が濃厚な田中。オープン戦初登板は3月3日・ナショナルズ戦、メジャーデビューは4月3日のアストロズ戦になる見込みだ。
大型契約はプレッシャーでもあるが、保険でもある。
ただ、である。
実はこれぐらいにスロー調整の方が、トータルで考えたら田中にはプラスに働くのではないかと思う部分もあるのだ。
7年総額1億5500万ドル(約161億円)という超破格契約は、田中にとってはもちろん大きなプレッシャーとしてのしかかっているに違いない。ただ、その一方でヤンキースにとってみても、これだけの大型契約を結んだ選手を、ちょっとやそっとじゃ見限れないというプレッシャーもあるはずなのだ。
そう考えれば何も開幕に100%を目指して、フルスロットルで調整する必要はない。
メジャーはおよそ4月から10月までの6カ月間で、きっちり162試合を消化する。田中の場合は、メジャーに入ってもポテンシャルの高さは明らかだ。ならばそういう投手にとって一番大切なのは、そのハードスケジュールの中で、いかにコンディションをしっかりキープできるか。言い方を替えれば、8~9割程度の体調をどれだけ長い間、維持できるかが重要なのである。
そのためメジャーでは、多くは開幕時にはまだ70~80%、ヘタをすれば50~60%ぐらいの調整段階でシーズンに突入する選手もいる。そうして徐々に調子を上げて5月から6月ぐらいに80%から90%に持っていくというスタイルが主流なのだ。
要はゆったりした上り坂の6、7合目で開幕を迎え、なだらかに調子を上げていく。そうすることで10月(もしくは11月のポストシーズン)まで、高いパフォーマンスを発揮できる体調の維持を図るというわけである。
すべては過去の経験則によりカリキュラムされた仕上げ方なのである。
開幕に照準を合わせすぎる日本の選手。
しかし、日本の選手は開幕に目一杯に照準を合わせすぎる傾向がある。
特にメジャー1年目の選手は、首脳陣の評価も確定しておらず、どうしてもオープン戦でアピールをしようと必死になり過ぎる。オープン戦の間に急激に上げたコンディションは3月中にピークを迎えて、開幕では頂点から下り坂へと入ることになってしまう。
結果的には5、6月ぐらいには調子はガタ落ちして、再上昇するのが難しくなってしまいかねない。そうしてシーズントータルでは好調を維持できなかった、という結果に陥りがちである。