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金メダルで報奨金300万円は安い?
ソチ五輪で世界一の値段を考える。 

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小川勝

小川勝Masaru Ogawa

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photograph byYusuke Nakanishi/AFLO SPORT

posted2014/02/05 11:30

金メダルで報奨金300万円は安い?ソチ五輪で世界一の値段を考える。<Number Web> photograph by Yusuke Nakanishi/AFLO SPORT

金メダル獲得で2600万円という日本では例外的な報奨金を手にする可能性がある、スピードスケートの加藤条治(右)と長島圭一郎。メダルの価値はお金では計れないが、果たしてそれは高いのか、安いのか。

スポンサー、競技人口も夏季競技とは規模が違う。

 支援企業の中で一番大きな部類に入る日本電産サンキョーでも、昨年の年間売上高は735億円。モーグルの上村愛子、伊藤みきが所属している北野建設も長野県の企業で618億円、ジャンプの葛西紀明、伊藤有希が所属している土屋ホームは北海道の企業で272億円。

 冬季五輪の選手を支援しているのは、こうした地方の中堅企業である。夏季五輪の選手を支援している企業には年間売上高が1兆円を超える大企業がいくつもあり、そもそも、ビジネスを行っている市場の規模がまったく違う。報奨金といっても、冬季競技の支援企業の場合、おのずと金額も限られてくるのはやむを得ないことだ。

 競技団体の財政事情においても、同じようなところがある。夏季五輪の競技の場合、陸上競技場や体育館は、47都道府県、すべてに普及しているため、競技人口も全国で増やしていける可能性がある。

 しかし冬季五輪のスキーやスケートは、雪の降る山、氷を張ったリンクが必要だ。スケートリンクは温暖な地域にも建設可能ではあるが、氷を維持するためには、気温が高いほど経費もかかる。よほど使用料を払って使ってくれる人が多くないと、施設を維持していけない。維持費を考えると、やはり寒冷地に建設することになる。

 競技施設がなければ、そのスポーツを始めることはできない。したがって冬季五輪の競技は、競技人口も北海道、東北、北信越といった地域に集中している。当然の結果として、競技人口も限定的なものになる。日本スキー連盟の登録者数は約1万2000人。日本スケート連盟が約9700人。これに対して夏季五輪の競技ではバスケットボールが約61万5000人、バレーボールが約40万人、バドミントンも約24万6000人である。選手が連盟に支払う登録料だけで、文字通りケタ違いということになる。

観客が入る国内の大会は、フィギュアなどごく一部。

 国内で開催する大会で観客を集めるにしても、冬季競技の場合、高額チケットが売れるのはフィギュアスケートなど、非常に限られた試合で、基本的には観客に対して、雪や氷のある寒い競技施設に防寒対策をして来てもらう必要がある。気候のいい春や夏に、サンダル履きでも観戦できる夏季五輪の競技と比べると、チケット収入をあげていくのも容易なことではない。

 このように、国内で収入を得ようとするとき、冬季競技はどうしてもハードルが高く、連盟の財政も厳しいものにならざるを得ないのである。

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