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<3度目の五輪で頂点を> 加藤条治 「金メダルへの“壮大な実験”」
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byTakuya Sugiyama
posted2014/01/28 06:15
混戦模様の男子500m。勝敗を分けるものとは?
'10-'11年シーズンから昨シーズンまでの公式戦は延べ58レース。今シーズンもすでに10レースをこなしている。その一つ一つで加藤は、細やかな実験を繰り返してきたのだ。
体作りの面では、オフ期間のトレーニングメニューの工夫はもちろんのこと、シーズンのどの時期に、どの体重でいるのがベストかまで考え、さまざまなパターンをシミュレーションしてきた。
道具の面では、多くのスケート靴、多くのブレードを試した。ブレードを取り付ける角度や位置、ブレードの研ぎ方なども、レースごとに変えてきた。
そして、金メダルの実験室の中で最大の難関とも言えるのがコンディショニングだ。五輪のレース時間を最高の調子で迎えるための取り組みである。
近年、混戦度合いを増している男子500mでは、これこそがソチ五輪の勝敗を分けるポイントになりうる。
とりわけ、長い手足や屈強な筋肉にものを言わせる欧米人と違い、165cm、65kgと小柄な加藤にとって、レースで100%の力を出すことは極めて重要だ。
“条治ノート”を見なくても、頭と体が覚えている。
「僕は世界でも体重がいちばん軽い方で、身長も一番小さい。明らかに軽量級の僕は、ギリギリの戦いをして、ようやくみんなと一緒のところに行ける。1000mのレース後などは動けなくなって、転がっていないといけないのに、他の選手は普通にしていますから。根本的な差があるんです」
レース前にどういう負荷を掛けるのが良いのか。トレーニングによる筋肉破壊から超回復へと向かうための最高のスケジューリングはどれなのか。
加藤の手元には、日々の取り組みを記すために毎日欠かさずにつけている小さなノートがある。1日1ページと決めており、年に3、4冊。今ではかなりの冊数になった。
だが、ノートを見ることはさほど多くはない。書き込むことで頭の中に記憶された情報を、適宜引き出していく。スタッフがストックしてきた情報を持ち寄って最適なパターンが何であるかを考える。その結果、ピーキングを成功させる確率は少しずつ上がってきた。