REVERSE ANGLEBACK NUMBER
17歳・高梨沙羅はなぜ世界一なのか。
人にはわからない欠点を修正する力。
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph byKYODO
posted2014/01/15 10:50
今季6勝目を大きく引き寄せた一本目のジャンプ。ワールドカップ勝利数は、すでに歴代1位となっている。
まだ若い競技である女子ジャンプ、秩序はこれから。
ただ、この点をあまり過大に見ることもためらわれる。
女子ジャンプは新しい種目で、国際スキー連盟に登録する選手は230人ほどだそうだ。ソチからオリンピック種目に加わったが、よくこの競技人口で新種目として採用されたものだと驚く。登録人数が230人あまりだから、トップを争うような選手は数人だ。今シーズンを見ても、高梨とロシアのアバクモワ、ドイツのフォクトが三強で、ほかは大きく引き離されている。
若い選手が多いのも特徴で、高梨の17歳が最年少というわけではなく、15、16の選手もけっこういる。数年前まで世界のトップにいた選手があっという間に凋落して、若い選手に取って代わられる。まだまだ「世界秩序」が出来上がっていないのだ。
高梨などトップ3とほかの選手を見ながら、野球に引き比べて考えてみた。ほとんどの選手はストレートしか投げられないが、3人はカーブを投げる、それもねらったところに投げることができる。ただ、おそらくほとんどの選手がカーブを投げられるようになるのもそう時間はかからないだろう。
そのとき勝負を分けるのはなにか。高梨のコメントを聞くと、勝っても手放しの喜びようということはない。宮の森でのノーマルヒルで勝ったときも、「テレマークが入らなかったのが課題」と話していた。審判はテレマークが入らなかったと減点したわけではないのに、本人は不満だったのだ。
他人が気づかない修正点を見つける想像力が強さの源。
技術的にいつも不満がある。勝ったとか3位だったとかいう結果よりも、足りないものに目が行く。どの競技でも「つぎは修正して」というコメントを聞くが、ほんとうにできる選手は少ない。しかし高梨は、人から見て特に欠点には見えないのに自分には足りないところがわかる。その想像力の働きこそ彼女の強さではないか。
「私が」と書こうか、「私は」と書こうか、悩んで何度も書き換える。ほかの人から見るとどちらでもよいようなものだし、それによって伝わる内容もそれほど違わないように思えるのだが、本人にはその違いがどうしても納得できない。そういう注意力、想像力が彼女の強さを支えている。