オリンピックへの道BACK NUMBER
できないことと、あえてしないこと。
高梨沙羅、唇を噛んだ1年前との違い。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byShino Seki
posted2014/01/17 10:45
ソチ五輪から五輪種目に採用されたスキージャンプ女子。17歳の世界女王は、その名を歴史に刻むことができるだろうか。
昨年の札幌のときとは対照的だった。
1月11日と12日、札幌で行なわれたジャンプ女子ワールドカップの2つの試合で連勝した高梨沙羅は、終始笑みを交え、穏やかな表情を浮かべていた。
無理もない。2013年2月の札幌大会では5位と12位。大勢の観客が集まる中での成績に、唇をかんだ。
それから1年近くがたち、2日ともに優勝したのである。応援団に応える姿も、晴れやかさを感じさせた。
高梨は今シーズン、ワールドカップ開幕戦から4連勝を果たした。第5戦こそ3位にとどまったものの、総合優勝を果たした昨シーズン以上の順調な滑り出しを見せてきた。
それらの大会で目をひいたのは、課題としていたテレマークの修正に成功したことだった。
以前は飛距離ではトップであるにもかかわらず、テレマークが入りきらないために飛型点で劣り、優勝できないことがあった。シーズン前から、フィジカル面を強化するなど取り組みを続けてきたが、その成果として、昨シーズンとは打って変わってきれいにテレマークを入れられる試合が増えている。それが好成績につながっていた。
テレマークをあえて入れない、という選択。
そして、日本開催での大会であらためて強さを示した札幌では、別の一面も見せることになった。
11日にワールドカップ14度目の優勝を果たし、歴代最多勝利を記録した翌日、12日の試合のことだ。この日は雪が降りしきり、風向きも変わりやすい不安定なコンディションにあった。着地面にも雪が積もっていくことでスキー板が引っかかる選手がすくなからずいた。
「転倒する選手もいたので、ちょっと怖かったです」
と高梨も振り返った。
その天候の中、1回目で97mと最長不倒をマークする。だが、テレマークは入れずに、両足で着地をした。無理をせず、安全に着地することを考えたのだ。
「テレマークを入れて転んでしまったら、結果もついてこないです」
また、今後も大会は続いていく。その先にはオリンピックがある。ここで怪我をしたら意味はない。それを自覚するように、試合が終わったあと、高梨もこう語った。
「最後まで終われてよかったです」