REVERSE ANGLEBACK NUMBER
17歳・高梨沙羅はなぜ世界一なのか。
人にはわからない欠点を修正する力。
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph byKYODO
posted2014/01/15 10:50
今季6勝目を大きく引き寄せた一本目のジャンプ。ワールドカップ勝利数は、すでに歴代1位となっている。
週末のジャンプワールドカップの結果を見ていたら、なんだか混乱してきた。オーストリアで行なわれた男子は41歳の葛西紀明が勝ち、札幌で2日つづけて行なわれた女子のほうは17歳の高梨沙羅が連勝した。体力、筋力は20代、30代のころに比べると落ちているに違いない40代の葛西が勝った一方で、まだ17歳の高校生で技術的には発展途上と思える高梨も勝つ。一体ジャンプに必要なものってなんだろうと考えると、答えが見つからず、混乱してしまったのだ。
一方はピークを過ぎ、もう一方はこれからピークに向おうという選手が、ともに勝つ。これを見ると、ジャンプでのフィジカルな要素というものは結果に決定的な影響を与えないのではないかと思えてきた。肉体以外の要素、風向きや風の強さ、踏みきりのタイミングの感覚といった要素が勝負に大きくかかわる。それをうまくつかむ能力を磨けば、フィジカルな要素の不足はある程度補える。力だけじゃ勝てない。
体の小ささだけが高梨のアドバンテージではない。
映像を見ていない葛西の場合はひとまずおき、札幌で連勝した高梨で考えてみる。高梨は身長152cm、体重43kg。ジャンプは体重が軽い選手が有利だから、似たような身長、体重の選手もいるが、やはり参加している中では目立って小さい。この小ささがなかなか落ちないジャンプに役立っているのは確かだ。
たとえば、フィギュアスケートではジュニアのときに3回転半を跳べた選手が体が大きくなって完成してくるとうまく跳べなくなるということがよくある。それを乗り越えるには今度は軽さではなく筋力で跳ぶ体と技術を身につけていかなければならない。
では、札幌の2試合でともに最長不倒、ゲートを下げても勝つという高梨の圧倒的な飛距離も、体の小ささというアドバンテージのせいだったのだろうか。
彼女のジャンプを見ていると、体の小ささはあまり影響しているようには見えない。ジャンプは踏み切り、空中姿勢、着地が三つの大きな要素だが、踏み切りのタイミングがいつもドンピシャだし、低い飛び出しの方向もいつも同じように決まっている。空中の姿勢は少々の風ではびくともしない安定感を持っている。去年までは着地の時のテレマーク姿勢が決まらず、それが課題といわれていたが、今年はだいぶ改善した。飛距離でほかの選手を圧倒しているが、もしほかの選手が彼女と同じぐらいの飛距離で飛んだとしても、今年の彼女ほどテレマークを入れることはできないだろう。
つまり、体格のアドバンテージよりも、総合的な技術でほかを圧倒していると見るべきなのだ。