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ミラン会長の愛娘が経営の実権掌握。
お家騒動勃発で本田への影響は!?
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2014/01/03 08:01
試合を観戦するベルルスコーニ会長の愛娘バルバラ(中央)。トレードマークだったブロンドの髪を赤毛のストレートにイメチェンした。
バルバラにとって、ミランの現状は屈辱でしかない。
バルバラは物心ついたときから、最強クラブの代名詞だったミランとともに育ってきた。
「シーズンが終わった後の昼食会を今でもよく覚えている。うちにファンバステンやフリット、サビチェビッチたちが皆来てくれて、まだ小さかった私を可愛がってくれたわ」
バルバラにとって、ミランがユベントスやバルセロナなど他の名門クラブに遅れを取る現状は、屈辱以外の何物でもない。
盟友と愛娘の板ばさみにあったベルルスコーニは、ガッリアーニへチームを預かる現場のトップとして留まるよう説得し、娘にはクラブの商業面の決裁全権を与えた上でCEO兼副会長へ昇進させることで、内部の権力争いの収束を図った。
12月19日の新人事をもって、ミランにはガッリアーニとバルバラ、2人のCEO兼副会長が並び立つことになった。名番頭は主人の顔を立て、「私とバルバラとは誕生日も同じ。生まれたときから彼女のことを知っている。協力しあうよ」と語ったが、作り笑いは誤魔化せない。異なる経営哲学をもち反目しあう二頭体制は、冷戦状態のままクラブ内部にくすぶり続ける。
「カルチョの世界に女はあまり似合わんよ」
ただし、今回のお家騒動に実質勝ったのは、前途あるバルバラの方だろう。
齢69歳を数えるガッリアーニに対して、彼女はこれから働き盛りを迎える29歳。クラブの本部オフィス移転プロジェクトの責任者として大役を果たしたばかりの彼女は、名門復活へむけて最高経営執行責任者と副会長の肩書きを手に入れた。彼女にもう怖いものなどない。
昔ながらの男の世界を大事にしたいOBガットゥーゾは「カルチョの世界に女はあまり似合わんよ」とぼやいてみせたが、彼女を“女だてらに”と甘く見るとおそらく痛い目に遭う。
副会長バルバラは、すでに有名OBの招聘や若手育成とスカウト網の強化、有能なフロントのヘッドハントなど明確に改革プランを描いている。
改革の第一歩として、今季ベローナの躍進を担ったソリアーノSD(スポーツ・ディレクター)の引き抜きを進め、将来的には大物OBとして現サッカー協会副会長を務めるアルベルティーニの招聘も視野に入れる。
歴史を作ったOBの重用や有能なスカウト網確立は、今日のビッグクラブならどこでもやっている。バルバラが提唱している改革プランは、モダンな経営者として至極真っ当なアイデアだが、安定第一に凝り固まった異端の老舗には抵抗が大きかった。低迷クラブを変革するには、性別を問わず強力なリーダーシップが必要だ。