フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
高橋大輔、“絶望”からのソチ五輪。
仲間たちの思いを胸に、エースは甦る。
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byAsami Enomoto
posted2013/12/24 11:50
フリーの演技で右手から血を流した高橋。「人生でこんなに悔しい思いをしたことがなかった」と、代表発表の前の晩は寝られなかった。
ソチ五輪代表選抜の条件とは何だったのか?
2013年6月に日本スケート連盟が発表した五輪代表選手の選考基準には、3つの条件があった。
その1が、全日本選手権優勝者。優勝すれば無条件で内定というのは米国などと同じだ。
その2は、全日本で2位、3位の選手と、GPファイナルの日本人表彰台最上位者から選考。
そしてその3は、全日本終了時点での世界ランキング、ISUシーズンベストスコアの日本人上位3名選手の中から選考、というものである。
3つ目の条件は、明らかに万が一トップ選手が運悪く全日本選手権で体調を崩した場合に備えての救済策である。世界で戦っていくためには全日本の一発勝負だけで最良のチームを選抜できるとは限らず、過去の五輪でもこういった幅を持たせる代表枠は設定されていた。
苦しい選択を迫られた日本スケート連盟。
GPファイナルで初優勝、全日本でもタイトルを守った羽生結弦の代表決定は文句なしである。2位の町田樹はファイナルでこそメダルを逃したものの、GPシリーズ2戦で優勝して現在ISUランキングでは日本選手の中では高橋に次いで3位。シーズン最高スコアでも織田をわずかに上回って日本男子で3番目に高いスコアを出している。彼の代表決定も、順当な選択と言える。
残る1枠を誰にするのかというのが、日本スケート連盟に迫られた苦しい決断だった。
高橋大輔はバンクーバー五輪で銅メダルを手にし、そして日本男子では唯一、世界選手権とGPファイナルの両方のタイトルを手にした選手である。今シーズンもNHK杯で優勝し、羽生に次いで2番目に高いシーズンスコアを出している。負傷さえなければ、今季もGPファイナルに進出していた。世界的スタンダードで考えても、これほどの選手を五輪代表からはずすことなど、ありえなかっただろう。