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レッドブルで疎外感と戦った4年間。
F1引退のウェバーが涙を見せた理由。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byAP/AFLO
posted2013/11/29 10:30
アブダビGP、アメリカGP、ブラジルGPと最後3戦を2位、3位、2位と好成績でキャリアを締めくくったウェバー。
ウェバー同様、彼のサポートスタッフにも疎外感が。
レッドブルで、疎外感を感じながら戦ってきたのは、ニールだけではなかった。ウェバーを支えてきたトレーナーのリッチ・コナーも同様である。
「私もマークとともに、このチームを去るよ」
身長185cmのウェバーが75kgの体重を維持しているのは、コナーとともに厳しいトレーニングをこなしてきたからである。
トレーニングだけではない。KERS(運動エネルギー回生システム)が搭載されて、車重に余裕がなくなった2011年以降、ウェバーは食事にもことさら気を遣ってきた。「大好きだったピザを食べることは、ほとんどなかった」と語るのはフィジオセラピスト(理学療法士)で中国系イギリス人のポール・チャンである。
そのチャンもブラジルGPを最後にチームを去る。しかし、コナーが自らの意思でチームを離れるのに対して、チャンは「チームの決定だった」という。チャンはウェバーのフィジオでありながら、チームドクターとしてチームスタッフ全員の健康管理を行なってきた。レッドブルにとってなくてはならない存在である。チャンの解雇を知ったコナーは「この決定は、明らかにチームのミスだ」と憤る。
「さよならレッドブル。ありがとう仲間たち」
チームメートとの不和。チーム首脳陣との衝突。しかし、最後のレースとなったブラジルGPでウェバーと、ウェバーをサポートしてきたコナーとチャンを温かく送り出してくれたのは、共に戦ったチームスタッフだった。
表彰式の後、レッドブルのスタッフが全員ウェバーがいる表彰台へ向かい、ウェバーを肩車し、12年間のF1生活を讃えたのである。その輪の中心には、コナーとチャンの姿があった。チームは彼ら2人に対しても、敬意を表していた。予期せぬ祝福を受けた彼らの瞳は涙で濡れていた。
その光景をイギリスとオーストラリアで見ていたであろう、ニールと両親。きっと彼らも遠くからウェバーを祝福し、その仲間たちに感謝していたに違いない。
「さよならレッドブル。ありがとう仲間たち」と。