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さよなら、2.4リッターV8エンジン。
2014年からF1は新ターボ時代へ。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2013/12/15 08:01
F1特有の、曇りない純粋なエンジン音は一度聞いたら忘れられない。来年からは、新たな音がサーキットに響き渡ることだろう。
F1の魅力のひとつにエキゾーストノート(マフラーから聞こえるエンジン排気音)がある。初めてサーキットでF1を観戦した人が「エンジンの音に、とにかく驚いた」と語るのを何度も聞いたことがある。それが一部のマニアックなファンの声でないことは、1980~'90年代にはエンジン音を録音したテープやCDがお土産としてサーキットで売られていたことでもわかる。そのエキゾーストノートが、いま変わろうとしている。しかし、F1のエンジン音が変わるのはこれが初めてではない。
2013年までF1マシンの内燃機関として、サーキットで轟いていたエキゾーストノートは2.4リッター自然吸気のV型8気筒エンジンである。このエンジンがF1に登場したのはいまから7年前の'06年だった。その前年までは排気量が3リッターでシリンダー数も10気筒だったから、約2割ダウンサイジングしたこととなる。したがって、多くの人々がF1特有の甲高いエキゾーストノートが消滅してしまうのではないかと、当時かなり危惧したものである。
トラクションコントロールシステムが轟かせた雷音。
しかし、その心配は杞憂に終わった。確かにV10とは異なる音色に変わったことは事実だったが、F1に搭載されたV8エンジンはほかのカテゴリーのV8とは違い、1万9000回転以上の小気味のいいサウンドを奏でていたからである。
だが、そのエンジン音も翌年、変化する。レギュレーションによって最大回転数は1分間あたり1万9000に制限されたためである。だが、当時のF1のエンジン音には甲高い音以外に、もうひとつ、異なる魅力があった。それはトラクションコントロールシステム(TCS)によって調整された旋律である。
TCSはタイヤの空転を防ぐために過剰な駆動力を抑制するエンジン制御システムである。主に使われるのはコーナーの立ち上がりで、アクセルを踏み出してリアタイヤが空転すると、空転センサーがそれを感知してエンジンの点火を自動的に調整するため、「バ、バ、バーーーン」という一定のリズムで音階を上げていくのではなく、「バラ、バラ、バラ、バーーーン」という、まるで雷でも落ちたかのような音を轟かせていたものである。