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レッドブルで疎外感と戦った4年間。
F1引退のウェバーが涙を見せた理由。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byAP/AFLO
posted2013/11/29 10:30
アブダビGP、アメリカGP、ブラジルGPと最後3戦を2位、3位、2位と好成績でキャリアを締めくくったウェバー。
アメリカGPが開催されたテキサス州オースティンのパドックで、ささやかなイベントが行なわれた。
それはマーク・ウェバーがパートナーであるアン・ニールと両親に囲まれての記念撮影会だった。今シーズン限りでF1を引退するウェバー。しかし、最終戦は翌週のブラジルGPである。にもかかわらず、彼女たちは最終戦に向かわなかった。ニールは言う。
「レッドブルがサンパウロでマークのために送別会をやるとは思わないから」
ニールは、ウェバーがまだオーストラリアでレースをしていたころに、父親のアラン・ウェバーからマネージメントを依頼されたのが縁で、その後プライベートでもパートナーとなり、現在はウェバーとイギリスで生活を共にしているイギリス人である。そのニールにとって、レッドブルでの最後の4年間は、辛い日々の連続だった。
「すべてがセバスチャンを中心に回ってきたわ」
「私にとって最悪のレースは2010年のイギリスGP。予選前のフリー走行でセバスチャン(ベッテル)の新しいフロントウイングにトラブルが発生したため、予選ではマークの新フロントウイングをセバスチャンが使うことになったグランプリよ」
新フロントウイングを失ったウェバーは、ベッテルの後塵を拝して予選2番手。チームの決定に怒りが収まらなかったニールは、母国グランプリであるにも関わらず、サーキットを後にし、日曜日になってもシルバーストンへ行くことはなかった。
「すべてがセバスチャンを中心に回ってきたわ。2012年にアメリカGPでレッドブルがコンストラクターズ選手権を制したとき、レース後、彼らがそそくさと後片付けしていたので、私は『集合写真は撮らないの?』とクリスチャン(ホーナー/レッドブル・チーム代表)に聞いたの。すると彼は『セバスチャンのタイトルがブラジルGPに持ち越されたから、まだやらない』と言うの。
その気持ちもわからなくはないけど、コンストラクターズ選手権制覇に貢献したマークの気持ちはどうなるの?」
今年のインドGPでベッテルがタイトルを決めると同時に、レッドブルがコンストラクターズ選手権も4連覇したとき、集合写真を撮るレッドブルの輪の中に、ウェバーの姿はなかった。ウェバーは悟っていたのである。もう、ここに自分の居場所がないことを。
今シーズン限りでF1を離れるのも、それが根底にあった。