リーガ・エスパニョーラの愉楽BACK NUMBER
“クラブを超えた存在”にあらず!!
胸スポンサーを巡るバルサの騒動。
text by
中嶋亨Toru Nakajima
photograph byDaisuke Nakashima
posted2011/01/02 08:00
全世界14万人の“ソシオ”と呼ばれる会員の会費で運営されていたバルセロナ。ユニフォームの後ろ襟にある「MES QUE UN CLUB(クラブを超えた存在)」という言葉も消えるのか?
「自ら哲学を捨て去るのは賢明ではない」とクライフ。
ラポルタ会長の下で副会長を務めていたときのロセイは、クライフの助言を受ける側だった。その後、ロセイはラポルタと仲違いして一度バルセロナを離れたが、クライフはラポルタの支持者であり続けた。名誉会長の座をラポルタ会長時代に与えられたクライフは、ロセイが会長に就任した際、自ら名誉会長職を返上しようとしていた。かつてラポルタ派だったクライフとロセイは、いまや犬猿の仲とも言うべき間柄である。
ロセイに5年前の発言を持ち出されたクライフは直ちに反撃した。
「私も馬鹿ではない。状況が5年前と変わっているのなら、5年前と同じことを言わないのは当然だ。今、バルサが置かれている状況は5年前と変わっている。状況が変われば対処法も異なる。私が言うことを変えても、何ら不思議ではない。バルサは今、世界最高の哲学と共に最高の結果を残している。それなのに自らその哲学を捨て去るのは、とても賢明とは思えない」
ピッチ上での成功の大きさに比べると経営センスは凡庸!?
クライフが“ユニフォームを売る”ことを勧めた5年前のバルセロナは、クライフ監督時代のチャンピオンズリーグ制覇から14年も経ち、当時全盛だったが銀河系レアル・マドリーの後塵を拝していた。
しかし、ここ5年間のバルセロナはチャンピオンズリーグを2度制し、ジョゼップ・グアルディオラ率いる現在のチームは、サッカー界をリードする模範的存在となっている。
「状況が違えば対処法も異なる」とのクライフの言葉は、ピッチで勝ち取った現在の成功を経営面に活用しろという言葉に置き換えることができる。またクライフの「バルサは他のクラブの中の一つに過ぎない」という言葉はシンプルだが、深読みすれば「他のクラブが得ることができない成功を手にしておきながら、経営面での対処法が他のクラブと同じでは……」という意味にも取れる。
カタールとの契約が急展開した裏側には……。
さらに、クライフのロセイへの批判が力を持つ要因がもう一つある。それはロセイが所有していた会社の経営権をカタールの企業に売り払ったことである。
ロセイが会社売却の事実を明かしたのは、会長に就任する直前だった。彼が会長職に就いたならば、自らの会社の経営権を買い取ってもらい、その見返りとしてバルセロナのユニフォームをも売り渡すことを約束していたのではないか、という“疑惑”がある。
バルセロナはカタールより先に、ウズベキスタンの企業とスポンサー契約の交渉を行なっていたが、その話は立ち消えになり、ロセイの会長就任直後からカタールの名前が一気に浮上した。
2022年のW杯開催地に決まり、サッカー界における認知度アップのためにバルサのユニフォームに狙いをつけていたカタールと、会社売却を急ぐロセイの利害が一致したのではないかという憶測の記事が、地元誌に軒並み掲載されることとなった。